内容説明
新撰組や憂国の志士が闊歩する幕末の京都。若夫婦の真之介とゆずは、その地で道具屋「とびきり屋」を営んでいる。ある日真之介は道具の競り市で「茶杓箪笥」を買って店に持ち帰った。「茶杓箪笥」はその名のとおり茶杓を収める箱で、仕切りに一つずつ茶杓が収められていたが、一つだけ中が空いているものがあった。そこにあるべき茶杓をめぐり、新撰組の芹沢鴨、茶の湯家元の若宗匠、もとの「茶杓箪笥」の持ち主、そしてゆずの間で騒動が持ち上がる。 そこにあるべき茶杓はあの利休居士のものというが、真相は? 物を見立てる不思議と喜びを描く「とびきり屋見立て帖」、惜しくも急逝した著者が遺したシリーズ第四弾。表題作を含めた傑作連作短篇6本を収録。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
佐々陽太朗(K.Tsubota)
120
山本氏は癌と闘いながらこのシリーズを書き続けていらっしゃったとのこと。「利休の茶杓」で本シリーズを締めくくろうとは考えていなかっただろう。このあと不穏な政情に揺れる幕末の京都と、そこで道具屋を営む若夫婦の姿をどのように描こうと構想していらっしゃったのか。激動の世にあってもおそらくこの夫婦は幸せに暮らし、商売も繁盛したに違いないのだが、それをどこまで書こうとなさったのか。もしもお元気で生きていらっしゃれば、我々はまだまだ長く本シリーズを、そして微笑ましい夫婦の姿を楽しめたに違いないのだ。誠に残念なことです。2016/06/04
ふじさん
78
山本兼一の作品を読むのは、「利休にたずねよ」以来である。幕末の京都を舞台に、真之介とゆずの若夫婦が営む古道具屋「とびきり屋」が主人公の作品。シリーズ第四作目、著者逝去による最終巻となった作品。幕末の混乱期の京都を舞台に、芹沢鴨等実在の人物が出て来たり、茶器等の古道具の世界が丁寧に描かれて興味深く面白かった。小さい店ながら、しっかりした目利きで茶器や茶碗の商いに情熱を傾け、店を盛り立てる夫婦の健気さや夫婦愛に心が癒された。 2021/05/14
じいじ
73
大好きなこのシリーズは、作者・山本兼一氏の急逝で、この4作目で終わってしまったのは、誠に残念です。幕末の京都で、二人が営む道具屋「とびきり屋」を舞台にした、読んでいて心が和む物語。何をおいても若さ溢れる、ゆずと真之介の二人をチカラいっぱい応援したくなります。若夫婦の人柄の良さが、和気あいあいの雰囲気つくり、働く若者たちのヤル気で店は満ち溢れています。このシリーズは、もっともっと読みたかった。2024/04/07
ユメ
40
京の情勢はますますきな臭くなってゆくが、真之介とゆずは動じない。蛤御門の変が勃発しても、平気で御所まで見に行ってしまう。もっとも、そんな野次馬は真之介に限らない。京雀のたくましさを実感させられた。『とびきり屋見立て帖』シリーズは本書が最終巻。都ではこの先、新選組や坂本龍馬、とびきり屋と縁のある人物が深く関わる事件が次々起こる……本当に、物語の続きが読みたかった。つくづく著者の急逝が惜しまれる。きっとどんな展開を迎えていたとしても、真之介とゆずは激動の幕末をしっかり生き抜いていたに違いないと信じている。2019/05/13
はにこ
31
とうとう最終巻になってしまった。信頼を得て商いがだんだん大きくなる。店も人も成長する。ゆずの親も心なしか優しくなった気が。兄貴は相変わらずアホだけど。。何より芹沢が横暴すぎる。こんな関係にジリジリしたり、時代の道具の知識を楽しみ、幕末という不安定な時代を感じることができるとびきり屋シリーズがここで終わってしまったことが残念でならない。奥様の追悼エッセイも刺さった。山本さん、素敵なシリーズを世の中に送り出してくれてありがとう。2021/11/07