内容説明
未知の空間、会社という迷路を彷徨う主人公。トラブル、時間、おしゃべり、女の子、コピー機。著者独特の上品なユーモアの漂う、なにか、もの哀しくも爽やかな空気の残像。会社員の日常を鮮やかに切り取った、野間文芸新人賞受賞作。サラリーマンの恋と噂と人間関係、奇妙で虚しくて、それでも魅力的な「星の見えない夜」も所収。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
コットン
82
わにさんのオススメ本。表題作を読むとテンポよく進む会社員小説ではあるが全員会社員とは思えず、時間内にコピーする場所を求めてのドタバタ。話の後半は会社内を彷徨い未開の地に分け入るような感覚になりながらユーモアタッチもあり面白い。2021/04/20
ネムル
11
文芸文庫で再読。最初は会社内の謎の機構と複雑な人間関係のみせる不条理に満ちたファルスとして楽しんだわけだが、話の要点を幾つか踏まえて再読すると、会社の情報と噂に富んだものが勝つ(?)と言わんばかりの心理戦と情報戦との魅力満載で、あたかもスパイ小説のパロディのよう。そして、女性はお茶汲み要員といった古いイメージで描かれながらも、男が情報戦線で遅れをとっているところがいかにもでもの凄く面白い。講談社文庫と違ったカップリングの「星の見えない夜」は表題作よりウェットで、しかし不条理と不気味さは同様で素晴らしい2012/12/20
Shinobi Nao
8
二編とも毎日どこかの会社で起こっているような些末な出来事。それをここまで引っ張って書いてしまうって、ある意味すごい。発端は本当に小さなことなのにどつぼにはまっていき、しかも容易に抜け出せない感じは、危険度は低いんだけど出口が全然見えない迷路に放り込まれたような落ち着かない気持ちにさせる。そのままドラマティックな展開など一ミリもなく、また、出口から出られた!というすっきり感もないまま終わる。かといって不快かと問われればそうでもなく、その「不快じゃないけどなんとなくもやもや」こそが日常なのだと思い知らされる。2015/09/15
tegi
6
あとがきで著者も言うように、発表から二十年以上経過してもおおむね「今の俺たち」の小説として読める、サラリーマン小説の傑作ふたつ。わかるわかる、というネタを、ふらつくようで実は緻密な語りの迷路で彩る。こういう小説をもっと読みたい。2013/09/30
ぽっか
4
なんといってもまず、タイトルに惹かれた。「さして重要でない一日」。おそらく、大人になったらほとんどの人がそんな毎日を送っているんじゃないだろうか?この文庫に収められているのは、どこにでもいそうなサラリーマンの、ある一日だったりある数ヶ月だったり。どちらも突然終わる。「え」と声が出るほど。だけど、それが妙にリアリティを出している。人生の一コマをきりとったようで。柴田元幸さんの解説が秀逸で、この作品は「会社員小説」のひとつの頂点だという。物語性はないけど、まったくないわけでもない。それはまさに実際の人生だと。2016/08/02