内容説明
死別を前に歌人夫婦が訪ねた歌枕の地
歌に魅せられ、その歌に詠まれた京都近郊の地をともに歩いて綴った歌人夫婦の記。河野氏の死の直前に行われた最後の対談を収録。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
双海(ふたみ)
21
再読。冒頭の「はじめに」は河野さんが死の十日ほど前に口述筆記されたもの。もうこの人とここを訪れることは二度とない、という悲愴感を突き抜けた覚悟。「われわれには歌があるから場所に意味がある」(永田さん)・・・場所そのものに意味があるのではなく、茂吉が歌に詠んだ場所なのだということから、蓮花寺に他のお寺とは違った意味合いがうまれてくる。「これからはかなしく思ひ出すだらうあんなにも若かつた夜と月と水」(永田さん)・「螢飛ぶ貴船の沢に若かりしわれらが時間(とき)は還ることなし」(河野さん)2019/08/08
双海(ふたみ)
17
河野さんと永田さんの歌枕の旅。死の直前に行われた対談も採録。一番最初の歌が私の敬愛する山川登美子「しら珠の数珠屋町とは・・・」で驚いた。「歌って本質的に消えていく運命にある。でも、何人もの人たちに取り上げられて、とりあえず口に上らせていく。それが歌の運命を決めていくんだね。いい歌だから、ほっといても残るというのは大嘘で、いい歌は残そうとしなければ残らない。勅撰集なんかにはそういう意図が感じられる。」(永田さん)2019/03/06
あや
10
京都の歌枕を訪ねて歩く新聞連載を1冊にまとめたもの。歌枕も大変興味深いし、河野さんのお人柄があふれる文章もとても美しい。2020/03/19
わいほす(noririn_papa)
10
たとえば百年前に恋するひとりの乙女が歌に詠んだ桜月夜の道を、自分の娘が通り、そして今、夫婦で歩く。歌枕に映る祇園のさまざまな時代の風景が重なってそこに見えてくる。 京都・滋賀という歌人の二人が育ち、出逢い、暮らした街の、歌枕を訪ねる旅。歌に込められた作者の思いと、自分たちの幼き日や青春時代の思い出と、そして今、妻の命の灯が残りわずかであろうことを知りつつ歩く夫婦の時間。そうしたいくつもの情景が交叉し、古都の持つ時間軸の長さに溶け込むとき、歌枕に新たな思いが加わり、また新しい歌が生まれる。2018/10/05
coco.
8
京都新聞に連載されていた歌人夫婦の近代歌枕紀行『京都歌枕』。妻である河野裕子氏に乳癌の再発・転移が判明した最中で綴られる文章には、身近に迫る死と愛郷の地との別れが節々から漂う。迂闊に区画整理されにくい寺社という土地があるお陰で、四季折々の風景が彩り景観も保存されているが、嘗ては戦乱の舞台であり弔う為に作られた土地。読んでいる間は今昔に思いを馳せ、哀愁漂う夕暮れを永遠に見ているかのような時間を感じた。死生観が色濃く反映されているので辛酸を嘗め尽くした人に勧めたい。沁み入るものがあるのだから。2018/09/14