内容説明
11~12世紀のロマネスクこそは、ヨーロッパ美術を大きく変える「革命」だった。宮廷文化から民衆文化への流れのなかで、知識より感情を、写実より形の自由を優先する新たな表現が、各地でいっせいに花ひらく。古代ギリシア・ローマやルネサンスだけがスタンダードではない。モダンアートにも通じる美の多様性を再発見する。※新潮選書に掲載の写真の一部は、電子版には収録しておりません。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
aisu
19
そういった様式を再発見し名付けたのは17、8世紀以降。ゴシックより下に見られていたが、ゴシックへの橋渡しとして研究されてきた。独自の魅力が認識されてくる。帯のピカソも脱帽!はただのアオリじゃなかった(笑)。私も最初「ゴシック以前」といった認識だったのですが、シンプルな建築、奇妙な彫刻、刺繍やタペストリーの伸びやかな表現にとても魅力を感じます。2017/01/31
ゆとにー
12
華々しいゴシックの前史に横たわり、地層を成すかのように西欧一帯に広まった、ロマネスク美術の魅力に触れる書物。サントリー学芸賞受賞。身体から身体へと直接語りかけるような感覚的造形を持つロマネスク美術への美的評価の定着は、ピカソや「ゾディアック」誌の登場を待たなければならなかった。うねりや歪みのような造形的特徴を可能にした条件が、実は農業革命や民族大移動の収束などの社会基盤の安定化のうちにも指摘できるものであり、2019/09/16
mahiro
11
ロマネスクは好きなのだが本書の柱頭彫刻の変遷に関する章などには興味を引かれた、古来アカンサス文様などで装飾されていた柱頭が聖書等を題材にした生命力溢れる人物や怪物の彫刻で溢れ、天井が高くなり見上げる人の視線が届きにくくなるゴシックに廃れたとか、ケートスと呼ばれた海獣文様の成り立ちへの考察など面白かった。ロマネスクからゴシックへの変化は大量生産への変化だったと言うのも頷けるものだった。2017/02/21
ユーディット
10
学術書は高い、重いのにこれは一般向けの値段と手軽さ。でも文体は論文調では無いが論文的な内容。特に珍しいのはイギリスのロマネスクに対する言及。感覚的に非常に共感できるところと、そうで無い部分がともにあり、「芸術とは何か」を再考させられる2016/12/25
ろべると
8
「とんぼの本」での解説が親しみやすかった著者なので購入。ロマネスク美術の多様性や神秘的ともいえる魅力を改めて感じる。豊富な写真も興味深く、とりわけ冒頭に登場するイヌとウサギの彫刻は、まるで現代の幼児が書いた絵のようでもあり、12世紀が一気に21世紀と繋がったようだ。とはいえ本書は入門書ではないので、どうしても著者の専門分野、特に学術論文になるような研究はオリジナルである必要があるので、ちょっと素人には細かい内容もあり、まだまだロマネスクへの視界がさっと開けたとは言えないのであった。2022/06/12