内容説明
甘く切ない恋の至福のときは短くて、頂点を極めたあとには、ただ、執着と妄想に満ちた永い時間が続くだけ……。かつての恋人と共に、死者の世界を永遠にさまよう甘美な地獄を幻想的な筆致で描く「38階の黄泉の国」。出ていった男を待ち暮らす寂しい女の危うい心理を追う「ピジョン・ブラッド」など、恋と、恋の残滓の中にひそむ、恐怖とサスペンスとミステリーを描く愛の終わりの物語全6編。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
310
6つの短篇を収録。配列には配慮がなされており、冒頭の「秋草」は小説世界の幻想空間へのいわば入眠、そして最後に置かれた「内助」は現実世界への帰還と覚醒だ。最後の1篇を除いて、これらの小説の向こうに待ち受けているのは奈落だ。そして、いずれの作品でも「こんなはずではなかったのに」という陥穽に陥った主人公たちの戸惑いが核をなしている。ここに描かれる奈落は、日常の一歩先というよりは日常そのものの中に潜んでいたことに主人公たちも、そして読者である私たち自身も物語の最後に気づかされるのである。2017/06/22
mariya926
114
レビュアー大賞の参加賞のクーポンで読んだ本です。竜巻ガールと悩んでこちらのレビューが気になったので読んでみましたが、恋愛の終わりを描いた短編集。恋愛3か月ぐらいが一番楽しくて、終わりが一番苦しいですが、その苦しみを感じながら「そうそう。そうなんだよ」と共感しつつ読み終えました。結婚して恋愛のトキメキはないけど、別れの苦しさを感じない事はいい面ですね。あまりに愛情が歪むと、ある意味恐怖ですね。この作家さんの本をもっと読んでみたいです。2023/04/12
マエダ
92
渋い。女性の何を考えているかわからないラインの描写がすごく面白い。勧められ読んだが今までの自分の読書遍歴とはまた一味違う角度の本で満足。2016/12/30
じいじ
85
読み終えて知りました、篠田さんの初期の作品だと。巻末の解説で、小池真理子は「6短篇どれも極上の作品…」と、少々ほめ過ぎだが、著者のそのごの大成を匂わせる出来ばえだと思います。情景描写などの多少のゴツゴツ感は、誰でも初期の作品にはみられることだ。文章の歯切れよさ読み易さは、後の篠田節子を感じさせてくれます。ちょっぴり怖いミステリー短篇集でした。2023/09/11
あつひめ
85
ピジョン・ブラッドは以前にも読んだことがあった。息苦しいような心境がどんどん負を招いていくような気がした。女の幸せって巣箱を作ってその中で睦まじく暮らすことと思う人が多いのだろうか。それも愛した人と・・・。残念なことに誠の愛と信じるものほど、なかなか手に入りにくい。人はどんどん欲深くなるから少しずつ気持ちに負担を上乗せしながら生きていく。「38階の黄泉の国」・・・ゾゾッとした。永遠の愛をこんな形で手に入れるとは。「いつの日か一緒になりたい」なんて思いを抱くのが怖くなった。愛憎・・・愛も憎しみも紙一重。2013/03/28