内容説明
“原子力村のドン”と呼ばれた森は、晩年になって、ひとつの謎に苛まれていた。父母係累を一瞬にして喪い、自身も爆心地で被爆した昭和二十年夏の広島。あの日、あの場所に“特殊爆弾”が落とされることを、恩師の湯川秀樹は知っていたと聞かされたのだ。自分の原子力人生を決定づけた恩師の真意は、いったい何だったのか。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
壱萬参仟縁
38
森一久。日本の原子力を動かしてきたドンだね(52頁)。中曽根、正力以外にもいたのか。読売新聞の中村政雄氏によると、森は人脈を使い、外堀から動かし、東電を包囲していく。金も権力もないから(53頁)。朝永振一郎先生は、湯川先生よりも原子力に懐疑的(100頁)。86年5月19日信毎でも、森氏はチェルノブイリ事故を受けて、日本で一人でも放射能で死んだら日本の原発は終わりです(152頁)と述べている。2016/05/02
おさむ
33
湯川秀樹の弟子、ジャーナリスト、原子力ムラのドン、そして被爆者。矛盾する複数のカオを持っていた黒衣の一生を描く。まさに裏舞台という言葉がピッタリの人物です。「原子力を理解するのは現代人の義務であり権利だ」が哲学。フクシマの事故を思うにつけて、彼の先見性に驚きます。2015/11/27
小鈴
18
この中途半端な感じは著者も不本意に感じていると信じたい。『絵はがきにされた少年』は装丁もこだわっていた感じだったが、こちらは森一久氏の評伝なのに写真無し、三章構成!、シンプル過ぎる表紙。。。おそらく最後は福島原発事故と絡めてもっと書きたかったのではないだろうか。00年代に東電取締役に原発に電源車を配備するように提言したり(電源無くメルトダウンしましたね)。原子力史には欠かせない人物のため文庫化する際は、最後まで書ききって欲しい。原発事故前に亡くなった森一久氏に合掌。2016/01/18
やす
12
ショッキングな題名に惹かれて購読。でも、そんな疑問を持っただけで事実の解明はされない。ちょっとインチキな題名。森一久という原子力村の中核的人物の伝記になる。森さんは広島で被爆し、生死の境を彷徨ったのち生還し湯川研究室を卒業してジャーナリスト→日本原子力産業会議に入る。被爆したからこそ原子力の平和利用に瑕疵があってはならないという強い信念の元、推進派とも反対派とも国内外に広い人脈をもち、安全な原子力発電を目指した方。晩年には利権に群がるだけ、かっこよく反対したいだけの人が増え真摯さがなくなったと嘆いていた。2015/10/21
Uzundk
10
原子力ムラの森一久さんの話。初めて名前を聞いた。広島で被爆し、家族を失い自身も生死を彷徨ったのちに原子力を安易に利用しようとする政治と経済を批判しながらもその流れに絡め取られていく様が見て取れた。森さんは核の巨大なエネルギーを体感した故に、それを制御し暴走させないことが自らの出来る事と思って原子力の政治経済の中に入ったが、取り扱う電力会社や政治にも(遠回しで言えば国民にも)その意識が欠けていた。また歯止めとなるべき団体が出来無かった事に憤りを感じていたのだな。2016/05/28