内容説明
秩禄処分とは、明治9年、華族・士族に与えられていた家禄を廃止し、「武士」という特権的身分を解体した変革である。現代にたとえれば、公務員をいったん全員解雇して公職を再編するようなこの措置は、なぜ、曲折を経つつも順調に実施され、武士という身分はほとんど無抵抗のまま解消されたのか。江戸時代以来、「武士」はどのように位置付けられ、没落する士族たちは、新たな時代にどう立ち向かっていったのかを明らかにする。(講談社学術文庫)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
うえぽん
46
京大人文研の助手による1999年の中公新書を文庫化したもの。学制、徴兵令、地租改正に匹敵した維新期の改革である秩禄処分。武士身分の特権剥奪を僅か10年ほどで完了した経緯を維新期、留守政府期、大久保政権期の順に整理。留守政府の秩禄処分への楽観的見通しは、四民平等化改革が表面上順調に進んだためとあるが、既得権を神聖と見る西欧人には理解し難かったとの指摘は興味深い。家禄は藩への義務の見返りのため、廃藩後、既得権としての主張が困難で、世論の批判等から華士族も家禄廃止はやむなしと考えたことが早期達成の背景だとする。2025/02/23
かんがく
14
明治政府の改革の中では、廃藩置県や徴兵令に比べると地味な印象の残る秩禄処分について丁寧に記述。廃藩置県期から行われ始めた禄の軽減、留守政府における井上馨の急進的改革、大久保政権による実施といった時代ごとにどのような形がとられたかがよくわかる。士族が権利の上で平民と同じになった後も、モラルの上で国民の模範とされたという点は初めて気づく点だった。2020/05/28
アメヲトコ
9
もと中公新書として99年刊。明治初期、すでに存在意義を失いつつあった武士たちから既得権=家禄をいかに剥奪するか。この困難なミッションを平和裏に実現するまでの過程を丁寧に追った一冊です。推進派と反対派の議論が興味深く、中でも遣欧使節で心折れて最後はボヤきおじさんになる木戸孝允が印象的。2020/02/17
さとうしん
4
秩禄処分といえば「士族の商法」とか士族の帰農がまず思い浮かぶが、本書によれば、経験のない者にいきなり農業をやらせるのは相当無理なことであるようだ。これはサラリーマンが退職(あるいは失業)したら田舎で農業をみたいなことがよく言われる現代にも通じる教訓だろう。あとは本書で言及される、当局がまず自主的な改革を命じ、その不徹底を理由に抜本的な改革を命じるとか、本来は貴族自身の自主的な判断でなされるはずのノブレス・オブリージュが、下々の方から強制されるというのも今でも「あるある」である。2016/06/08
Mitz
4
明治維新の三大改革として、学制・徴兵令・地租改正が知られている。しかし、版籍奉還、廃藩置県、そしてこの書の主題である秩禄処分こそが、真の改革と言えよう。特権階級を廃して列強に抗するための殖産興業の財源を得る…。この新政府にとって最大の“功績”が思いのほか知名度が低いのは、既得権を奪うという構図が、彼らにとって都合が悪いからかもしれぬ。…王政復古から10年で武士という身分が消滅した。没落した士族のその後、そして不満を抱いた士族の反乱等、維新史の裏側が垣間見え、とても勉強になった。明治という時代は実に奥深い。2016/01/06