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内容説明
留学体験に取材した『倫敦塔』,日露戦争にまつわる怪談『趣味の遺伝』,アーサー王時代の物語『幻影の盾』など七つの短篇.同時期の『猫』と全く異質なこれらの作品の世界はユーモアや諷刺の裏側にひそむ漱石の「低音部」であり,やがてそれは『それから』以後の彼の全作品に拡大されてゆく. (解説 江藤淳・注 石井和夫)
目次
目 次
倫 敦 塔
カーライル博物館
幻影の盾
琴のそら音
一 夜
薤 露 行
趣味の遺伝
解 説……(江藤 淳)
注…………(石 井 和 夫)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
藤月はな(灯れ松明の火)
95
夏目漱石の英国留学時などの随筆に、ランスロット卿の物語の翻訳も収録された豪華な短編集。「倫敦塔」は怪奇的雰囲気に読み手も酔っていたら最後でぶち壊し!「例え、厚い雲でも人は乗れない」という事を知った時のように、幻想というものは何気ない現在的考えによってそれを夢見ていた時すらも台無しにされるんだな・・・。一方で「琴の空音」や「趣味の遺伝」は『眉かくしの霊』のような怪談なので少し、背筋が凍ります。それにしても夏目漱石が翻訳した物語は典雅です。どうして昔の日本語(特に色彩表現)はこんなにも優雅で鮮やなんだろう2017/12/12
NAO
55
「倫敦塔」と「幻影の盾」は、妖しげな舞台設定が『夢十夜』の雰囲気に似ていると思う。「幻影の盾」「薤露行」はアーサー王時代の恋愛もので、「薤露行」はマロリーが書いたランスロットとグィネヴィアが気に入らないと漱石自身が書き換えを試みたもの。さすがにディテールは変えられないから漱石らしさを出すのは難しかったと思うが、漱石は意外と乙女チックな純愛物が好きだったようだ。「琴のそら音」「趣味の遺伝」は、どちらも日露戦争に関連付けた恋愛が絡んだ怪奇譚。戦争が身近にあるということは、死も身近だということ。⇒2017/01/22
Gotoran
52
ロンドン留学時訪問の「倫敦塔」、そこに刻まれたリチャード二世、ヘンリー六世等の英国王朝に想いを馳せた夢想的な作品。紀行文の「カーライル博物館」。中世騎士悲恋物語の「幻影の盾」。東京を舞台に主人公<余>と回りの人との日常での夢・幻を滑稽に描いた「琴のそら音」、「一夜」、日露戦争に纏わる怪談の「趣味の遺伝」。緻密で美しい描写、絵画的情景、エーレンの亡骸が下るシーンが印象的な「薤露(カイロ)行」。現在/過去、現実/非現実(夢)、日常/非日常(幻)を彷徨っての漱石の幻想世界が垣間見られた。 2022/08/22
けぴ
40
我が輩は猫、と同じ頃執筆の作品です。「琴のそら音」が、辛うじて、会話調で読みやすいが、他は読みにくい。「趣味の遺伝」は読まずじまい。漱石コンプリートを目指す人以外はお勧めしません^_^;2018/12/13
ハイカラ
39
収められている作品の中では、やはり『倫敦塔』が一番面白い。現代と過去、現実と想像が混じりあう感じが最高。2016/05/29