内容説明
はるかな未来。強大な専制国家ラドチは人類宇宙を侵略・併呑して版図を広げていた。その主力となるのは宇宙艦隊と、艦のAI人格を数千人の肉体に転写して共有する生体兵器“属躰(アンシラリー)”である――。“わたし”は宇宙戦艦のAIだったが、最後の任務で裏切りに遭い、艦も大切な人も失ってしまう。ただ一人の属躰となって生き延びた“わたし”は復讐を誓い、極寒の辺境惑星に降り立つ……。デビュー長編にしてヒューゴー賞、ネビュラ賞、クラーク賞など、『ニューロマンサー』を超える史上初の英米7冠を制覇。本格宇宙SFのニュー・スタンダード登場!/解説=渡邊利道
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
Shintaro
79
参った。心を鬼にして今年のベスト20候補を絞ったばかりなのに、年末にきてこれだからな。アン・レッキーは上橋菜穂子さんのように執拗にワールドを作りこんでいく人なので、ツッコむよりは、どっぷりレッキーワールドに浸かったほうが吉。すると後半怒涛のようにページをめくる羽目になる。宇宙戦艦のAIの属躰としてただひとり生き残り復讐を誓うブレク。スターウォーズとは少し異なるもう一つの宇宙の真実があった。読み終えてみれば、鈴木康士の装画も『叛逆航路』というタイトルも必然性がある。見よ、この表紙を。感じよ、宇宙船の矜持を。2017/12/16
藤月はな(灯れ松明の火)
74
星間国家ラドチは、AIの人格を属躰(侵略した星の人間から意識を失くし、他の意識を入れやすくした人間)に転写させ、兵力とし、侵略を続けていた。だが歴代宇宙戦艦のAI、ブレクは復讐のためにラドチの独裁者を暗殺しようとする。三人称が「彼女」なので「彼女」という代名詞からくるイメージと物語を読んで自分の中で作り上げたイメージと組合わずに読むのに苦戦しました^^;それからブレクは映画『アイ・ロボット』のサニーから人間味ゆえの無駄を無くさせてなんとなく、腹が立つような人格のように読んでいました。なんか無神経なんだよね2016/01/31
sin
69
彼女は総体自我としての己の中で自己を育み、行動原理に基づいて慕う者をその手にかけなければならなかった相克と、本体から切り離されたことで人格を形成していく…芽生えたものは“復讐”…べスターの『虎よ虎よ』が当時のSF者に与えたインパクトを彷彿とさせるSF復讐譚…本作は長編ではあるが短編のように纏まった感じを覚えるのは、その緻密な世界造型にあって主人公の行動がいまだ端緒の部分に終わっているからであろうか?これだけを取ると物語はいまだプロローグにすぎない。2016/10/05
fukumasagami
50
「さあ、話しなさい」ストリガンは私の目を見つめていった。わたしの不安と逡巡を見抜いたにちがいない。彼女の医療インプラント越しに、血圧と体温と呼吸の変化を捉えたのだ。「理由を教えなさい」 わたしはまぶたを閉じた。かつてのように分軀たちの目を通して見ることができず、自分の居場所すらわからない感覚に陥る。 わたしは目を開き、大きく息を吸い込んだ。そして、語りはじめた。2016/12/17
つねじろう
43
独特な世界観だけどテーマはアーサー・C・クラークから脈々と受け継がれるSFの王道AIの進化。この話の主人公のAIは宇宙戦艦。宇宙の覇権争いの尖兵となって戦う戦艦<トーレンの正義>は4,000人の「属体」というレプリカントのような同人格の分身を持つ。彼女の名はブレク。絶対的支配者アナーンダ皇帝の陰謀に巻き込まれ艦も愛しい人も失い一体だけで皇帝に復讐を挑む。結構バードボイルな香りもある。AIと人間との恋愛感情や友情のギクシャク感も返って良い雰囲気が出てる。全て性別不明なので慣れるまでややこしい。それもSF風。2016/01/14