内容説明
「……絶望するには、いい人が多すぎる。希望を持つには、悪いやつが多すぎる」この国のありようを憂い、虐げられた人々のために、『蟹工船』や『党生活者』などの傑作を発表し、ペンを武器に国家権力に闘いを挑んだプロレタリア作家・小林多喜二。29歳という、その早すぎる死までの波乱の数年間を描く評伝劇。多喜二、その姉、故郷に残した恋人、偽装夫婦となる女同志、執拗に追跡する特高刑事……笑いと涙のなかに、登場人物たちそれぞれが胸に抱える苦しみや夢が浮かび上がる。官憲によって虐殺された多喜二の死の先に見えたものは何か? 格差と閉塞感にあえぐ現在の私たちは、「あとにつづくものを信じて走れ」と叫ぶ多喜二の理想を忘れてはいないか? 井上ひさし最期の戯曲にして未来へのメッセージに満ちた傑作。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
新地学@児童書病発動中
100
井上ひさしの最後の戯曲。小林多喜二が主人公なので、暗い内容を予想していたがユーモアたっぷりの軽やかな劇だった。特に多喜二の敵と言える特高刑事の二人がコミカルな雰囲気を作り出しており、思わず笑ってしまうとこともあった。ただしユーモアだけではなく、井上ひさし渾身のメッセージも表現されており、読者に強い印象を残す。庶民の生活が踏みにじられることへの強い怒りは他の戯曲と共通するものだ。「体ぜんたいでぶつかっていかなきゃ」という多喜二の台詞は、井上ひさしの生き方を象徴するものだし、読者に対する励ましの言葉でもある。2015/05/09
NAO
53
小林多喜二と、彼を追いまわす特高刑事二人、多喜二の姉、恋人、妻が繰り広げる人間劇。小林多喜二とかかわりを持つうちに自分も小説を書きたいと思うようになる特高刑事が描いた作品を読んだ多喜二の「頭だけちょっと突っ込んで書く。それではいけない。体全体でぶつかっていかなきゃねえ」という批評が、辛辣で印象的。体全体でぶつかって書き、拷問を受けて亡くなった多喜二。多喜二が刑務所の中で歌う「独房からのラブソング」、生の舞台で聴いてみたい。2016/08/20
フム
25
1933年2月、小林多喜二が権力の不条理な暴力によって29歳で虐殺されるまでの数年を描いた井上ひさしの戯曲。今年の秋にこまつ座が再演することを知って観に行きたかったが、都合がつかなかった。多喜二の死については三浦綾子の『母』を以前読んだ時、電車の中で泣けて困ったことがある。この戯曲も喜劇の要素はあるものの、やはり泣ける。貧困や弾圧の中迷いながら懸命に生きる人間への愛がある。多喜二を追う特効警察の古橋と山本も悲しく愛すべき人間であることにはかわりない。井上ひさしの遺作として大切に読みたい。2019/12/05
ひほ
24
予習終了。舞台が楽しみです。2019/09/29
純子
24
YAガイドブックで知って。井上ひさしさんの最後の戯曲だそうですね。樋口一葉や太宰治を主人公にしたお芝居は見たことがある。必ず笑いを入れながら作られるお芝居だけど、小林多喜二となると教科書の拷問を受けて亡くなったあの写真がちらちらして、ほんとに笑えるのかなぁと。特高のふたりがなんだかんだで多喜二に肩入れしたい心境になるところにはほっこり。でも、それだけに切なくもある。蟹工船のような小説を書けなくするために、まず右手の人差し指を折ったとのこと。蟹工船の何が悪いのか、と思うのに。2017/09/03
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