内容説明
美しい少年の人形を夜ごと愛撫する女。夢によって浸透された存在になっていく現実の少年。奇妙な透明感と、夢と現実の交歓。高橋たか子の独特な神秘主義を端正な文体で感覚的に描く幻想美の世界。男女の恋愛の、より深く深くと求めた内部の実在を鮮やかに浮かび上がらせた、華麗なる三部作。
目次
人形愛
秘儀
甦りの家
年譜
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
やいっち
81
高橋和巳の奥さんだった方。高橋和巳は若くして惜しくも亡くなった。彼の作家業を献身的に支えたとか。深く理解するには、カトリックの信仰に親しまないと見当違いな観念論で終わってしまうだろう。自分なりに下世話に解釈すると、自分が若いころ、男に人形…玩具として翻弄されたことを、今度は美しく初心な少年を人形のように弄んでいるようにも思える。幻想的なようでいて、己の欲望に過剰に忠実に振る舞ったとも思える。そう、あくまで下卑た理解だと断っておく。2021/11/02
HANA
52
三作品が収録されており、どれも少年との関係を描いたもの。ただどの作品も生活や直接的な性行為は描かれず、そこにあるのはむしろ共生関係とでもいうようなもの。そこには少年の蝋人形や空き家での密儀めいたものが介在して、夜の闇の中に潜んでいるようなセックスとはまた違う奇妙なエロティシズムが孕まれている。こういう観念上の少年愛は江戸時代の草紙や稲垣足穂に通じるものがあるようにも思える。ただ完全に少年が観念上の存在となっている足穂に比べて生々しいのは男女関係が底にあるからかな。神秘主義的な香りもする奇妙な読後感でした。2020/09/25
有理数
24
素晴らしい。人間の根源にある大らかで取り留めもない「命」というただそれだけの存在を、どうしてこんな穏やかな手触りで着実に言語化・物語化できるんだろうか。高橋たか子の描く存在は、極めて両義的。何かの狭間に立っている。少年、外と中、夢と現実、人間と精神、自分と他人。何かの疑惑から始まって歩き出し、けれど答えを見つけるまでの道程の最中にある人々。対話と接触のような儀式を通して、柔らかに「命」の曖昧さを解き明かしていこうとする。「甦りの家」に語られる想像力や追憶の観念の鮮烈さといったら。収録三篇とも傑作である。2015/12/29
ちぇけら
23
完璧な闇で、つるりと白い少年が夢を見ている。わたしはその匂いのない肌を愛撫する。尽きることのない欲望が、少年の上を這う。わたしは少年の底のない底に入ってゆく。「命の闇を感じるでしょ。すっかり裸にならなくては。肉体の裸にでなくて、存在の裸ということ。命の闇があんぐり口をあけているだけ、そこにはもう何の足がかりもない。それはとても快楽よ、それだけが快楽なのよ」少年が知らない少年を底から汲みあげる。毒のように。悪魔のように。少年の体はずっぽりと、わたしに従順。わかるの。概念に、哲学に近づいているのが。快感なの。2019/05/15
凛
13
外ではなく内にある生命の根源を探し求める生き方。幻想的で日本味の強い湿度ある文体の中、答えが見つかってそうで見つからないような、彷徨っている様が描かれている。あまりピンとこなかった。2016/03/12