内容説明
「死の病」と恐れられたエイズ。その治療薬を世界で初めて開発したのは日本人だった! 熊本大学医学部を卒業し、アメリカの国立衛生研究所に勤務していたときの快挙である。リスクの高い研究に生命を賭して取り組んだ日々、巻き込まれた特許紛争など、いまやノーベル賞候補ともいわれる研究者の半生を描いたノンフィクション。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
サンダーバード@読メ野鳥の会・怪鳥
83
AZT(アジドチミジン)がエイズの特効薬である事は知っていたが、発見者が日本人であることを初めて知った。当時感染経路も不明で、致死率は90%以上という不治の病。まるで機雷の浮かぶ海に飛び込み探し物をするようなもので、命と引き換えに研究を行うのは全く割に合わない。それにしても、HIVウィルスの発見から僅か1年で新薬を発見したとは驚いた。もちろん発見は彼だけの功績ではなく、共同研究者や治験という名の「人体実験」に協力した患者の力も大きいことはいうまでもない。また、最後の特許論争は非常に興味深かった。★★★★★2016/07/23
かんちゃん
32
満屋は生粋の研究者だ。エイズ治療薬を発見したのは間違いなく満屋の功績だが、特許は米国の製薬会社に横取りされ、社会的な名誉も米国政府に持っていかれている。日本人としては、米国をアンフェアだと非難したくなる。しかし、満屋には研究者の資質はあっても、世間の荒波を泳いでいく能力が致命的に欠落していたのも事実だ。それをサムライ的だと賛美するのもいいが、日本人の交渉力や政治力の未熟さを映し出したシンボリックな事例として胸に刻むべきだろう。2015/10/02
太鼓
13
現代の研究者は、研究者的な側面だけでなく、ビジネス的な視点も持っていないと、商業主義者にいいようにされてしまうんでしょうね。でも彼の尊い理念は素晴らしいです。実績も同じく素晴らしい。2015/12/29
まさあき
8
10年以上経っても色あせないノンフィクション。感染経路が全く分からない状態でエイズウイルスと闘った日本人医師の物語。一読して、ふと過った名分は『西郷南州遺訓』より「命もいらず、名もいらず、官位も金もいらぬ人は仕末に困るものなり。この仕末に困る人ならでは、艱難を共にして国家の大業は成し得られぬなり」であった。母との交わした約束を守るために新薬開発に没頭した男は九州生まれ。西郷の精神がどこかにあったのかもしれない。2015/10/25
おすもう
6
1年遅れで視た2015年のNHKドキュメンタリーがとても印象的で,数日で読了した。本当に身の程知らずな,自分勝手な思いだが,満屋教授みたいな人生に憧れる。自分も,満屋教授みたいな仕事がしたかった。また,新薬発見の道筋は巡り合わせというか,運命的なものも感じる。順風満帆の道程でないことは明らかだが,まるで満屋教授の意思に呼応するように,歯車が噛み合うように,テンポよく進行した印象。つねに「なぜ」を課し,「不必要なことはやるべきではない」を実践することも,万事に通じるように思いました。是非おすすめしたい一冊。2016/08/12