内容説明
「君達の指導者は嘘つきだ!」「馬鹿共眼ヲ醒マセ」。兵たちの太平洋戦争。「死戦を越えて誤戦となり」、「日海空軍は何処へ行つたのだらうか」、「日本降伏せり」――。太平洋戦争で撒かれた無数の伝単=宣伝ビラ。ビルマで、フィリピンで、沖縄で兵士は伝単に何を思ったか? 日米「情報戦」の実態を分析しつつ、兵それぞれにとっての「戦争」を明らかにする。(講談社選書メチエ)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
なる
19
伝単とは敵に降伏を促したりするために撒かれる宣伝ビラのこと。戦時中には日本はもちろんのこと、敵対する敵国にも多くの伝単が撒かれて謀略合戦が繰り広げられたという。敵国へばら撒くのが目的なので当然ながら文字は敵国の言葉を駆使しているというのがなんとも感慨深い。けれどクオリティも幅があり却って失笑を買うこともあったという。悪名高いインパール作戦は大々的にその失敗を敵国に利用されたのも皮肉。「日本の新兵器」が原子爆弾というのがなんとも。インパクトが強いのは食料不足で空腹に苦しむ日本軍兵士へと撒かれた寿司の伝単。2024/07/03
makoto018
12
伝単とは、戦時中にまかれたりする謀略宣伝ビラのこと。比較社会文化の研究者である著者が、太平洋戦争中の伝単を収集し、戦史物などの記載を読みながら分析している。一般住民や兵士たちの厭戦気分や猜疑心を煽るのもそうだが、大本営発表しか知らない兵士たちに事実を知らせたり、「生きて虜囚の辱めを受けず」と叩き込まれていた兵士たちに降伏を促すなど、米英軍が効果的に作成していたことがわかる。戦争末期、狂信的な精神論に満ちた命令や報道よりも、米軍の伝単で兵士たちは戦況を把握していたことが記されていて、大変興味深い考察だった。2022/05/14
Toska
7
いかにもこの著者らしい目のつけどころ。飢えに苦しむ日本兵の頭上に寿司や天ぷらの写真入りビラを撒き散らす米軍のえげつなさ…と思いきや、優勢だった緒戦の日本軍も同じようなことをやっていた。「飯テロ」という言葉こそなけれ、発想としてはこの当時から存在していたようだ。最大のインパクトを与えたのが米軍の空襲予告ビラだが、これはビラの出来不出来と言うよりも、予言を自己成就させてしまう圧倒的な実力によるものだろう。2022/07/20
sfこと古谷俊一
6
日華事変から太平洋戦争の、宣伝ビラを受け取った側の反応を中心として書いている。正確な戦況を描いた写真誌や私的な手紙などのほうが、宣伝文書よりも効果的だったようである。自分で考えるときに納得するのだ、ってのは広告宣伝などでも言えることですな。2009/09/28
CCC
5
心を攻める難しさが分かる。しかしこういう状況だと、どうしても相手を貶めたくなるものなのだろうか。2015/07/02