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内容説明
美術作品も、人と同じく一期一会で、出会う時期というものがあるにちがいない。私が病気の娘を案じているときに出会ったシャルダンも、娘を供養すべく東北に見に行った供養絵額も、娘の死後の絶望の中で見入った中国の山水画も、みな出会うべきときに出会ったのだと思っている。それらは、二度と同じ心境では見ることができないものだ。(エピローグより)美の原点に触れる、一期一会の物語。【図版125点収録】
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ハッシー
91
★★★☆☆ カラーで鑑賞できる図版が収録された美術書。単なる名画紹介ではなく、社会や文化背景も含めた説明や、笑い、食、眠り、だまし絵、仮装、刺青、一発屋、ナルシズム等様々な切り口でまとめられた作品を鑑賞できたのは新鮮だった。この本は、若くして亡くなった著者の一人娘に捧げられたものであり、その喪失感により心血を注いできた美術史への情熱が失われた心情を正直に吐露している。ある絵画との出会いによって、美術の力を再び感じた著者の今後に幸多かれと願う。2019/04/14
どんぐり
78
産経新聞「欲望の美術史」連載のオールカラーの図版で読む美術エッセイ。禁断の実を食べるアダムとイブの原罪を扱った「美術館の中の男と女」の話に始まるプロローグから、美術は“出会う時期によって多少の意味を持ち、心の明暗に寄り添ってくれるのである”と結ぶエピローグまで、全27話。第25話の「白い蝶」とエピローグは、大学卒業直前に突然がんに罹り、その半年後に逝ってしまった娘さんの早すぎる死を悼む文章があり、大きな悲嘆や苦悩の前で美術の無力さを覚えた著者の思いが記されている。2017/07/07
ハイランド
64
再読だったのに、ほとんど内容を記憶していなかった不思議。自分の記憶力が不安になりました。そういえばこの絵は見た記憶があると思っても、文章がおぼろげにしか……。2016/12/18
ハイランド
57
絵画を人の営みでテーマ分けし古今東西分け隔てなく取り上げた美術紹介。浅学ながら絵画が好きで、気になる展覧会があれば行ける範囲で極力行こうと心掛けているが、半分も行けていない。なぜ行くかと問われれば、好きになれる絵に出合いたい、これに尽きる。有名な絵を見たいということも無いではないが、むしろ知らない絵に目が留まり、その前から動けなくなる体験をしたい。そんな出会いを求め展覧会に足を運ぶのである。この本は著者が亡くした娘へのレクイエム。それが単なる美術解説書と一線を画す深みを与えていると思うのは不謹慎だろうか。2015/11/28
ホークス
36
人間を惹きつける(誘惑する)美術の要素を語る。岩手の供養絵額、刺青アート、ナチスの戦争画、三島由紀夫の美術観など視野が広い。一人娘を亡くされて二年。「亡き子を描く」の項にその悲しみを綴る。熊谷守一作『陽の死んだ日』の図と著者の痛みが重なり胸が詰まった。執筆にあたっての心境はエピローグで改めて吐露される。絵画に限らず表現と自意識は切り離せない。曾我蕭白の自己顕示欲は、海外と比較しても突出している。偽の出自もサインもユニーク過ぎる。過剰に抑制的な「空気の国」では、自意識は萎縮か暴発しがちだ。2019/10/05