内容説明
写経中に欲情する男、蛇にレイプされる女、天女像に射精する修行僧……独自の言語感覚でエロスを詩的に表現する詩人であり小説家でもある著者が、難解で知られる日本最古の仏教説話集『日本霊異記』を下敷きにして現代の物語を創造した。黎明期の仏教が教える人間の「性と生と死」を高度な作品世界に蘇らせ、大きな反響を呼んだ連作短編集の文庫化。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
tomi
29
平安初期に書かれた最古の仏教説話集「日本霊異記」を下敷きにした作品集。子を捨てた報いで乳房を腫らして苦しむ幽霊。蛇に犯され、蛇の情欲の虜になってゆく娘。天女の像と交情する修行僧。本能むきだしの淫靡で生々しい話が美しく濃密な文章で綴られている。2015/06/16
メタボン
26
☆☆☆★ 日本霊異記を題材とし、生と性と死の根源を炙り出した伊藤比呂美らしい作品集。女の「くぼ」に異物が入る話、あきれ果てるほど「くながう」話が多い。カラダを通じてコトバを駆使して「繁殖」に対する強いこだわりを感じるのは、伊藤比呂美の原点とも言える。2021/06/24
Roy
24
★★★★★ 腐敗した屍の肉であったり、女または男の性液(精液)であったり、かつて体から流れ出た生臭い血であったり、この本全体から、酷く粘着性の強いぬちゃぬちゃしたものを感じる。それらは濃厚な死臭を撒き散らせながらも、今生への糸を引くような未練をも感じさせ、少し泣けてくる。伊藤の言葉を「即物的な営み」と表し、即物的女性観を語る津島佑子の解説もとても良い。2009/05/16
miroku
17
聖なる淫猥。素朴であけっぴろげで、生きるエネルギーに満ちている。伊藤比呂美のそんな作風が好き♪2013/04/26
takeapple
15
奈良・平安時代には、きっと今よりも死や飢えが身近で、だから仏教の極楽往生という部分が強調されたというか必要とされたんだろう。またそんな時代だから人々はたくさんセックスして子をなして、そこに幸せや不幸せがたくさんあったんだろう。そんなことを感じさせる、日本霊異記を元ネタにした伊藤比呂美の小説。2017/08/14