内容説明
言葉の町を歩き、言葉のシーツにくるまれ、言葉の包帯を巻いて、あるいは言葉の肉料理を食べ、そして言葉の性交を行う――言葉だけで出来た建物の中で、肉体、時間、空間、世界、あらゆるものを生成する無数の言葉と戯れる陶酔。衝突を繰りかえす豊穣なイメージを道しるべに、著者自らが選んだ短篇集、第二弾。
目次
忘れられた土地
帰還
恋人たち
不滅の夜
降誕祭の夜
暗殺者
手品師
静かな家
不死の女
夜には九夜
指の話
真珠の首飾り
アルゴス
薔薇のタンゴ
両性具有者(たち)
赤ちゃん教育
マティーニの注文の仕方
原色図鑑
著者から読者へ
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
踊る猫
21
「表象の小説家」? 確かに金井美恵子氏はキネティックな小説を書く人物だ。しかしこの短編集を読めば、綴られるのが微細なヴィジョンだけではなく詩的な言葉の愚直な輝き、即物的な漢語の連なりであることが分かるのではないだろうか。今の金井氏なら書かないだろうショートコント的な作品、メタフィクション的な作品など「失敗作」や「実験」を敢えて選んで読ませようとするのは読者への親切心故か悪意故か……ともあれこの短編集では金井氏が「映画」や「官能的」という紋切型では括れない作家であることを如実に表していて、凄まじい強度を孕む2018/04/09
ちぇけら
19
《すごす》のではなく《やりすごす》1日に、血管の浮いたしろい脚をかかえると、清潔なシーツからあの日のにおいがする。「あの人は永遠のナイフだわ」。からだの中心から(中心の、その底から)わきだす熱が、指先までめぐって痺れる。からめた舌先に歯をたてると、あなたの薄皮はかんたんにやぶれた。くちのなかに甘さがひろがり、心臓から海のおとがした。かつて夜だった朝に、ゆめとげんじつとまぼろしが混じったまどろみから醒めて、おろされるためのファスナーをあげる。ベランダの薔薇がいつのまにか咲いて、すこしだけ泣いてみるのだった。2019/07/25
りりり
11
金井美恵子「恋人たち/降誕祭の夜」今の自分の精神上、細部まで読み解くことは出来なく消化不良のような読後感があるけれど一応読了。2016/01/27
chie
8
たくさんの、私には読むことができない本が、この本には詰まっている気がした。2018/04/05
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5
「小説を書くということは、生の、あるいは世界の全体性を回復することではなく、もともと、ありもしない全体性を、解体させることかもしれないし、失われた時を回復させるのではなく、その反対かもしれない。解体する時間、とける時」(「原色図鑑」より。243ページ)2017/04/14