内容説明
その時、夫は妻を抱きしめるしかなかった――歌人永田和宏の妻であり、戦後を代表する女流歌人・河野裕子が、突然、乳がんの宣告を受けた。闘病生活を家族で支え合い、恢復に向いつつも、妻は過剰な服薬のため精神的に不安定になってゆく。凄絶な日々に懊悩し葛藤する夫。そして、がんの再発……。発病から最期の日まで、限りある命と向き合いながら歌を詠み続けた夫婦の愛の物語。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
chimako
99
二人の愛のただならぬ深さに圧倒され、読み終えた後呆然とする。ことばを使って無からものを生み出す作業を生業とすることの厳しさや歓び。その激しさ。凡庸な暮らしを営む者には、著者と奥様の間の何ものも理解できないかもしれないが。癌におかされ明日の命さえ分からぬ日にも息が続く限り歌を作り続けた希代の歌人 河野裕子。彼女を妻に持った著者は最期の歌を口述筆記する。壮絶だが、暖かい。柔らかい。終りの40ページは涙で文字が滲み何度も本を閉じる。良い本を読みました。教えてくださった読友さんに深く感謝いたします。ありがとう。2016/05/15
s-kozy
88
ヴェネツィアさんの感想に触発されて手に取る。歌人・河野裕子の癌発症からの最期の10年間を細胞生物学者であり同じく歌人の夫・永田和宏が綴った歌文集。永田のエッセイであるが、二人の短歌も多く読むことができる。もう圧倒された。何に?最後まで歌を詠む歌人であろうとし歌人であった河野の姿に、その河野の最期を見届けしっかりとその思いを支えた永田の思いに、短歌があることでこんなにも豊かになる二人の人生に、そして、人生をこんなにも豊かにする短歌そのものに。重層的な読み応えのある素晴らしい作品だった。お勧めできる作品です。2016/05/10
たまきら
47
サライの記事から。与謝野晶子や高村光太郎もそうだけれど、やっぱり詩や歌の世界の恋愛表現、日本らしいなあ…。本人はきまり悪いであろうエピソードもありのままに書いているその誠実さと、様々な感情がそのまま表現されている歌を通した夫婦の時間にただただ圧倒されました。夫はパラ見。読んでいて辛くなってしまったんだそうです。かわいい人だなあ。私は歌は作れないけれど、彼を愛しています。2022/12/12
tu-bo@散歩カメラ修行中
34
読友さんの感想で知った。有名な歌人の闘病を看取った細胞生物学者で有名な歌人の夫が書いた闘病記である。凄絶、壮絶、残酷、覚悟そして類を見ない夫婦愛が描かれていた。文中に挿入の河野裕子さん、永田和宏さんの短歌が、歌心のない私にも、たびたび迫ってきた。科学者らしいと言う表現が適切か、装飾の少ない文体も私には、好ましかった。最後の方は、涙を流しながらの読書になりました。 再読必至。<(_ _)>2016/06/09
水色系
33
がんで先は長くないと聞かされてのち、一首でも多く、とあらんかぎりの力で歌を詠んだ裕子さん。愛する夫や子どもを残して先に逝くさみしさ。また、夫の和宏さんは歌人かつ科学者で、だから妻との残り時間が相当程度具体的にわかってしまう。そのため、彼による記述は具体的で生々しく、それでいて熱く、痛切である。こんな宝物のような本に出会えて私は幸せだ。/一日が過ぎれば一日減ってゆく君との時間 もうすぐ夏至だ(P159、永田和宏)【いわた書店一万円選書5冊目】2023/09/04