内容説明
第三のローマ=モスクワはいかに生まれたか。東から西から、ルーシの地に歴史の圧力がかかる。モンゴル、十字軍、異教リトアニア、そしてビザンツの正教会。中世期、激動するユーラシアでルーシがロシアへと固まってゆくドラマを追う。(講談社選書メチエ)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
HANA
74
ニュースで見ない日のないロシアであるが、前身である「ルーシー」が如何にして「ロシア」になったのかを語った一冊。「タタールのくびき」からモスクワによる統一までがその範囲となっている。人名地名に馴染みが無く読むのに苦労するが、通史としては極めて面白い。何よりロシアがその成立前夜からギリシア正教と不離の関係にある事がよくわかる。一時期ニュースを騒がせたキリル総主教のプーチン支持、今までは時代錯誤としか思えなかったけど、これを読んだ上だと納得は出来ないけど理解は出来る気がする。ロシアを考える上で読むべき一冊。2022/06/28
kuroma831
12
東スラヴ人の政治的共同体であった「ルーシ」が「ロシア」という政治的共同体に変容するプロセスを眺める。スコープは11世紀〜15世紀ほどの期間であり、モンゴルの侵寇によってキエフ・ルーシが崩壊し、タタールの軛のもとでルーシ諸公国が鎬を削り、モスクワ大公国による「ロシア」の統一を果たすまで。意外と面白かったのは、ルーシにおけるギリシャ正教受容史とも言える点。2024/03/21
富士さん
3
再読。特に派手なわけではないですが、とても好きな本です。ロシアの核となったモスクワを中心にしたルーシ諸侯たち、ハンザに連なり異彩を放つノブコロド共和国、圧倒的な軍事力と圧倒的な文化力で影響力を振るう宗主国のキプチャク・モンゴルとビザンツ・ギリシャ。単色のイメージが拭えないロシアの地にこれだけ彩り豊かな世界が入り乱れていたというだけで興味がつきません。しかも著者の語り口が魅力的で、自身のロシア史観を語りながら、他の地域との比較を織り交ぜながら、資料を単に並べただけではない味わいがあるのが魅力的です。2016/03/04
総代
3
ロシア国家の成り立ちについての解説。草原の騎馬民族からの流れと第三のローマの後継国家として。皇帝権確立の以前のモスクワ大公国や大リトアニアとの関係性とモスクワ公の覇権争いが章だてでまとめられており、中世の四方八方から圧力をかけてきた教会を含む勢力との関係もわかりやすくまとめてくれている。ルーシというふんわりとしたまとまりがロシアとして固まっていく過程を、やや興奮ぎみな筆致で書いている。2012/06/01
inu
2
「その意識の底には、共産主義独裁の時代が終わってもなお、一元的な権力による支配への恐怖とともに強力な帝国的国家像への憧れがゆらめいているのである。しかも、それはロシア人精神の最良の部分を陶冶するキリスト教の倫理観(ただ一者存在し、すべてをみそなわす神とその神の前に正しくあること)の一部なのであり、その世界像を単に支配への欲求の病的な現れに過ぎないと片づけてしまうと、またロシアが見えなくなってしまうように思う。」2022/04/13