内容説明
戦前の松竹では「小津は二人いらない」と言われ、戦後の東宝では名作を連打しながら、黒澤作品の添え物も撮った寡黙な名匠・成瀬。「浮雲」の高峰秀子、「めし」の原節子、「流れる」の山田五十鈴、「鰯雲」の淡島千景、「おかあさん」の香川京子……なぜ彼の撮った女優はかくも美しく、懐かしいのか? 映画と昭和を刻む感動的評論。※新潮選書に掲載の写真は、電子版には収録しておりません。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
踊る猫
27
例えば蓮實重彦の、如何にも渾身の力を込めた小津論に似た本を想像して読んだのだけれど、全然テンションが違うので肩透かしを食らったかのような、そんな気分になった。むろん、いい意味でである。そんなに肩肘張らずに、少し成瀬の世界を散歩/散策してみましょうという程度のノリで読ませる好著。小津のようにはシリアスに語られることは相対的に少ない成瀬を、この本片手に楽しむことができる。イントロダクションとしても読めるし、成瀬を知っている方も唸らせるほどの分析もされているのではないか。「貧乏くさい」という言葉から読解が始まる2021/03/18
fseigojp
11
小津は二人いらない むしろ、こっち2019/09/07
koji
7
読後放心し、いざレビューに向かった時、言葉が溢れすぎて全く纏まりません。大袈裟な形容はしません。只々、静かに1語1語本書を味わってください。どんなに時間がかかっても、否むしろ時間を惜しむほどかけて。そして、成瀬の「まなざし」の奥にある「哀しみ」は、川本さんの「哀しみ」のまなざしでもあります。本書の読書過程は、それをを深く深く心の襞に刻みつけていくことです。これほどの「映画評論」を手にすることは、まずないでしょう。至福の時を過ごしました。2015/05/06
泉を乱す
6
過去読了2015/03/15
駄目男
6
とにかく成瀬映画では貧乏と金である。昔の男から金を無心される田中絹代。「そんなもの会社が出してくれないの」と突っぱねる。こんなことは小津や黒沢映画では起きない。 『浮雲』でも森雅之が高峰のところに、妻の葬式の費用を借りに行く場面など。しみったれているのではなく、成瀬は自らの体験もあって、このような貧困を描くのが好きで、それがまた情味を奥深くしているのではなかろうか。同じように貧乏で弱い男を描きながらも暗く、深刻になってしまう溝口健二の世界とは違い弱い男に優しい。 2019/11/19