内容説明
使用済みの絵葉書、義眼、徽章、発条、玩具の楽器、人形専用の帽子、ドアノブ、化石……。「一体こんなもの、誰が買うの?」という品を扱う店ばかりが集まっている、世界で一番小さなアーケード。それを必要としているのが、たとえたった一人だとしても、その一人がたどり着くまで辛抱強く待ち続ける――。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
mae.dat
293
生と死が薄らぼんやり漂う10話の連作短篇。アーケードの大家の娘(名前知らず)目線で、店子さんのお店を行き来してね、店主やお店に訪れる人々とのやり取りが繰り広げられます。けど、そこは洋子さんの創り出す不条理な世界。扱う商品も、登場人物も……う〜ん、何て言うのか。地味。商品は特殊性が高過ぎる嫌いがありますね。それに歯車が噛み合っていないのに、無理くり動いている様な、そんな不安定さを持って話が進行していくのね。うむ〜って思ったよ。そしたら、ラストの疾走感と喪失感(ó﹏ò。)。2023/11/29
さてさて
264
『いらっしゃいませ』という一言でお客さんをねぎらうアーケードの人たち。『はるかな道のりの果て、ようやく求めるべき品に巡り合』い、『窪み』の中で彼らの訪れをじっと待っていた品物たちとの出会いの先にある解放感に満たされた人々の笑顔。「最果てのアーケード」という書名から抱く寂しさの極限の感情が先行するこの作品。乱暴に扱うと壊れてしまいそうなその絶品の表現の数々。その中から浮かび上がる静かな死の世界の前に、優しく、柔らかく、そしてほんのりと温かく燃える炎の揺らぎを感じた、そんな小川さんらしさに包まれた作品でした。2021/01/18
三代目 びあだいまおう
195
まだ半分も読んでない。じゃ感想書くなよ!仰る通り。でもね、小川先生の美しい言葉、言葉の美しさ、シーンの多彩さ、色合い、空気感、鼓動。読書って麻薬だわ!仮にこの小さなアーケードが実在したとして、こんなに素敵な言葉でそれを表現できる人が小川先生以外にあるものか!短編集なのにその意味では小川作品最高傑作? はい!小川先生の作品全部読んだわけじゃないです!なのに最高傑作?でもそう思ったんです、で、これから小川作品読んで、更なる最高傑作に出合いそうな、そんな予感がします!ヤバいね、読書って!麻薬だわ。2018/11/05
エドワード
184
私はこの最果てアーケードを知っている。昭和にタイムスリップしたように、時が止まった町。音楽が流れ、焼魚の匂いがして、純喫茶、洋装店、荒物屋、こども服屋、コロッケを揚げる肉屋が並ぶ。コンビニやドラッグストアや携帯ショップは無い。倉敷市の大原美術館を訪ねた時、駅前商店街がまさにそうだった。奇しくも小川洋子さんは岡山市生まれ、私は彼女の脳裏の風景を見たに違いない。前に読んだ本の舞台がショッピングモールだった。日本の大部分はモール型の町になりつつあるが、小川さんのようにアーケードを愛する人間がいることに心安らぐ。2015/05/22
ちなぽむ and ぽむの助 @ 休止中
183
いつの日か、顔も知らないだれかが、きっと慈しんだろう。屋根裏や、看板のあかりも薄暗い雑貨屋の隅でひっそりと身を寄せあうものたち。黄ばんだり色褪せているそれをそっと持ちあげて、ふうと埃をはらう。だれの邪魔にもならないよう息をひそめたそれらの、語られない物語に思いを馳せる。 もうとうにいなくなってしまった持ち主たちの、しあわせな日々や愛あふれた輝きは、少しだけかなしく仄かにあたたかい。その繊細さを壊さないようにそっとステンドグラスの光に浸す。異様なまでの蠱惑。そこは、向こうの世界の入口。2020/02/18