内容説明
「父が精魂を傾けながら絶筆となってしまったこの作品を、必ずや私の手で完成し父の無念を晴らすつもりだ」――その公約を果たすためには、30余年の歳月が必要であった。本書は、「孤愁(サウダーデ)」を毎日新聞連載中に新田次郎氏が急逝、未完に終わった作品を息子である藤原正彦が書き継いで完成させた。ポルトガル人ヴェンセスラオ・デ・モラエスの評伝である。
「孤愁(サウダーデ)」とは、「愛するものの不在により引き起こされる、胸のうずくような思いや懐かしさ」のこと。軍人で、外交官で、商人で、詩人でもあったモラエスは、在日ポルトガル領事もつとめた。日本人のおよねと結婚、およね亡き後は妻の故郷である徳島に住み、その生涯を終えた。あまり知られていないが、モラエスの遺した詳細な日記や日本を題材にした作品が、日本の素晴らしさ、日本人の美徳を世界に知らしめ、「もう一人の小泉八雲」といわれている。
精緻で美しくも厳しい自然描写の新田次郎ファン、日本人の誇りと品格を重んじる藤原正彦ファン、双方の期待に応える一冊。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
Cinejazz
14
明治後期に来日、日本の自然、文化、女性をこよなく愛し、ポルトガルの海軍士官であり外交官、文筆家として名を馳せたヴェンセスラオ・デ・モラエス(1854-1929)の半生を綴った波乱万丈の大河評伝小説。 毎日新聞に連載中だった『孤愁』は、新田次郎氏の未完絶筆となったが、次男の藤原正彦氏が父の無念を晴らすと霊前での誓い、32年かけて約束を果たし完成された親子共作の感動の叙事詩。 神戸の領事館時代に伴侶となったヨネとの死別、姪コハルの早逝、二人の故郷徳島市の眉山の麓に揃って眠るモラエスに黙祷・・・。2021/12/01
ろこぽん
7
一冊読んで曖昧だがサウダーデの意味がわかった気がする。堺事件や神戸事件での切腹など、知らなかった歴史。明治時代に日本のことをこんなにも理解し愛してくれた外国人がいたことが嬉い。私も大好きな神戸布引の滝、六甲山、そして徳島も出てきて楽しく読めたが、神戸の東遊園地にモラエスの像があること、眉山山頂にモラエス館があることもこの小説を読むまで知らなかった(気づかなかった)。モラエスの著書、読んでみよう。正彦氏が書かれた後半はモラエスは少しおしゃべりでハハハと笑うように。それにしてもモラエスの女運の悪さよ。。。2021/06/20
H
5
新田次郎と藤原正彦父子の合作。正直どこから引き継いだのかはあとがきを読むまで分からなかった。モラエスというポルトガル人が明治大正昭和と日本で生き生涯を終えたことは全く知らなかったけど、何か嬉しくもあり新鮮で衝撃的な感動を覚えたね。2019/06/15
Sanchai
2
日清・日露戦争、第一次世界大戦の頃の社会の雰囲気が良く出ている小説だった。また、明治後期から大正時代の神戸や徳島の様子がよく伝わってくる。この頃の外交官って、いったん赴任したらこれだけの長期間にわたって任国滞在したのだ。そりゃあ親日派・知日派になって下さるわけだ。本書を読むだけでもモラエスの日本研究の一端を垣間見ることができるが、これを読んでしまうと、モラエスの著書も読んでみたくなる。2021/10/16
ばるたん
1
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