内容説明
口のきけない青年は、入り組んだ海岸線に沿って、ただバスを走らせ続けることしかできなかった。まるで、世界を縫い合わせるかのように――。芥川賞候補となった表題作と、自身が人魚であると信じる老婆の物語「人魚の唄」を収録。寂れた漁村が特異な輝きを帯びる、神話的な二篇。三島賞受賞作家、渾身の野心作。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
(C17H26O4)
82
信男のマイクロバスが海沿いの入り組んだ国道を行く。海辺の土地がばらばらにならないよう、集落と集落を縫い合わせる。毎日毎日毎日。現在はいつのまにか過去になりまた現在になりまた過去に。信男は記憶のどこにいるのか何かを見ているのか。山は何かを分泌し海の皮膚は破けて赤紫色に染まる。台風8号の暴風雨は全ての記憶を消したかのように思えた。けれど口もきけず感情も表すことのない信男の代わりに読者は見るのだ。土地と人と信男の記憶を出来事を。土地の意思は信男を離さない。新道のトンネルの先に見えた湾は開き、そして閉じていた。 2019/09/02
まるっちょ
10
信男は辛抱強い男だ。どんなに文句を言われても、理不尽に罵られても黙々とバスを走らせる。 ヨシノ婆だけが彼の味方だった。そうだろう? 彼女を見つけだす。ただその為だけに彼は生かされたのだ。 人には理解できない使命を受けた男の一生。海に還る人魚とウミガメになった男の人魚の唄。ナオコ婆から溢れる透明な蝶たちの羽ばたき。首藤助長が出てくるところをみると、どうやら内容は九年前の祈りと繋がっているみたいだ。私はこの作風、嫌いじゃない。2017/07/15
阿呆った(旧・ことうら)
8
「人魚の唄」「マイクロバス」ともに、同じ町の話で、『アサコ姉』が共通で登場することで、二つの物語に同時空間がある。そして、それぞれに出てくる老婆と無口な男性がこの作品のキーパーソンだ。情景描写と記憶の断片が交錯する文章、隠喩の上に直喩が乗る文章がこの作品を幻想的にしている。また登場する男性が『語らないこと』が多くを語っている。複雑に絡み合った文章は読みやすくはないけれど、海の波が押したり引いたりするように、読み手を沖に引き込むような作品だ。2015/04/26
takao
2
ふむ2024/02/17
Yui.M
2
読んでいるときは、その文章をたどっていくこと自体とても苦痛だった。先に進んでいるのか、はたまた戻っているのか、実像なのか虚像なのか、常にそんなことをおもわなければいけなかったから。新潮社HP内で佐伯一麦氏が本作について「難解さの輝き」という書評を書いている。それを読んで少し理解できた、そうか、良作だなと思えた。2013/02/14
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