内容説明
雨交じりの風が吹く10月のレイキャヴィク。湿地にある建物の地階で、老人の死体が発見された。侵入の形跡はなく、被害者に招き入れられた何者かが突発的に殺害し、逃走したものと思われた。金品が盗まれた形跡はない。ずさんで不器用、典型的アイスランドの殺人か? だが、現場に残された3つの単語からなるメッセージが事件の様相を変えた。しだいに明らかになる被害者の隠された過去。そして臓腑をえぐる真相。ガラスの鍵賞2年連続受賞の前人未踏の快挙を成し遂げ、CWAゴールドダガーを受賞した、北欧ミステリの巨人の話題作。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
474
警察小説、というのだろう。私のイメージするミステリーとは随分違う。それに警察小説だとしても、主任捜査官のエーレンデュルの捜査方法は、素人目にも正攻法からはほど遠い。おそらくレイキャビク警察だからというわけではないのだろう。また、およそ馴染みのない人名や地名はともかく、アイスランド特有の風土感や空気感は残念ながらいささか乏しいようだ。ただし、国の全人口が30数万人という少なさは、きわめて特異であり、そのことは本書において重要なキー・ポイントとして機能している。終結部に向かって加速してゆく躍動感は見事だ。2016/09/29
utinopoti27
181
本作は、北欧の小国アイスランドで起きたある殺人事件を軸にしたヒューマンミステリだ。被害者は老人男性。現場には血痕の付着した灰皿と、奇妙なメモが残されていた・・。著者の筆は、被害者の【血】にまつわる因縁の系譜と、事件を担当するエーレンデュル捜査官の人物像に焦点をあてることで、この国が抱える社会構造のひずみを浮き彫りにしてゆく。加えて、形容詞や比喩表現を極力省いた簡潔な文章が、鬱々と重苦しい世界観に軽快なテンポを与えているのも見逃せない点だ。権威ある賞を受賞した北欧ミステリの傑作シリーズ。看板に偽りなし。2020/12/08
stobe1904
148
アイスランド産の「ガラスの鍵」賞の受賞作。家族の在り方と性犯罪を根底に置きながらストーリーが展開される。ヘニング・マンケルのヴァランダーを彷彿させる捜査官エーレンデュルを中心に、下流老人の殺人事件を追いかける。決して明るく楽しい話ではないが、読者を引き込む筆力はさすがなもの。唯一の明るい面は、エーレンデュルと麻薬中毒の娘との関係が良くなる兆しがあることであろうか?ヘニング・マンケル亡き後の北欧ミステリーを代表する作家として、コンスタントに翻訳、出版してほしい。2015/11/06
紅はこべ
147
ハードカヴァーでは既読だが、最寄りの図書館に文庫版が入っていたので、思わず借りてしまった。やっぱり北欧ミステリでは断トツに暗い。高福祉国家でも性被害は実在する。アイスランド人は世代を遡ると、必ず親戚姻戚関係になるって、現在もそうなのかな。それにしてもどうして日本の出版社ってシリーズ物を第一作から出さないんだろう。2023/12/02
bookkeeper
134
★★★★☆ 初読。レイキャビィクで老人の殺人事件が発生。「おれは、あいつ」不可解な書き置き以外は何も特徴の無い事件…。捜査官のエーレンデュルが辿り着く真相は。 単一民族で島国。低い犯罪発生率。見ようによっては日本と似ていて、でも知る機会のほとんどないアイスランド発のミステリ。エーレンデュルの家庭は破綻していて、麻薬中毒の娘との関係も痛ましい程なのですが、捜査の過程を共有する中で距離が近付いていくのが仄かな救い。救いようの無い悲劇ながら、読み易くて展開も速いです。「泣くことができるようによと言ったんです」2024/12/31