内容説明
眼の手術後、異様に研ぎ澄まされていく感覚の中で、世界が、時空が変貌を遂げていく。現代文学の極北を行く著者の真骨頂を示す連作集。「夜明けまで」「晴れた眼」「白い糸杉」「犬の道」「朝の客」「日や月や」「苺」「初時雨」「年末」「火の手」「知らぬ唄」「聖耳」
目次
夜明けまで
晴れた眼
白い糸杉
犬の道
朝の客
日や月や
苺
初時雨
年末
火の手
知らぬ唄
聖耳
著者から読者へ
年譜
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
くさてる
14
類まれなる短編集。やはりわたしは古井由吉を読むのにはもう十年くらい生きたあとの方が良いのでは、と思わされた。すごいとか良いとかそういうクリシェでしか表現できないのはこの作品には失礼だけど、どこがどういい、と表現するにはわたしのなかの語彙や表現力が足りなさすぎる感じ。ひとつひとつの文を読み落とさずに味わおうとしても太刀打ちできない感じにこちらの気持ちが途切れてしまっても、また次の文が試すように待っている。この感覚。異様な世界。圧倒されました。2014/10/17
つーさま
13
眼を患い、聴覚に頼らざるを得ない入院生活を送る男。犬の遠吠え、電車の音、記憶から抜け落ちた音、古典から引かれた銘文の声、そういった声音の違う音や声が彼の耳にこだまし、現実とも夢ともつかぬ想念が、静謐と狂騒とを交互に繰り返しながら、彼の頭の中を駆けめぐる。それは耳が研ぎ澄まれたことに端を発しているというよりかは、むしろ在りもしないイメージを新たに生み出したり、喚び起こしたりしているように見える。(続)2013/06/26
ken
6
以前から「杳子」くらいは読みたいと思っていた。先日、知人から「あなたの文体と似ている」といわれ、有頂天で手に取った本書。結論を言うと詩的かつ観念的な文体で、何を言っているのかほとんど理解できなかった。ストーリーもないに等しいイメージの世界があれこれ綴られ、一見してはそれらの間に有機的な連関を探すことはできない。要するに極めて難解なのだ。ただし、これが文学的に成功していると評価される本作と、成功していない拙作とは本質が全く異なる。要するに自分の文体は「気取ってるだけで意味不明な文体」ということで オーケー。2018/10/04
龍國竣/リュウゴク
5
病、老い、事故、空襲。死が連なっていく様子を間に置き、目と耳と、思索とが綴られていく。この本の内では、落語や説話、古典、小説が引かれている。そして、音や叫びが聴こえてきて、ふいに賑わせる。即ち、外から訪れるものに対して敏感なのだ。読者もその構えを要求される。「でかい」「凄げえな」という言葉を見つけるとにやりとさせられる。2013/06/23
tsukamg
4
目の手術をした主人公が、感覚から連想する記憶を、今起きている現実と変わらぬもののように感じたり、夢の出来事のように感じたりしつつ、そこに空想の枝を増やし、ありもしなかった記憶をも追体験しているがごとく描写していく、連作短編集。主人公が経験している時間軸はひとつながりなので、振り落とされないようにしつつ、現実と過去と空想をひたすらに脳内で映像化しつつ読んでいくと、人は誰でも豊穣なイメージの映像コンテンツを心の中に持っているんではないかと思わされる。2020/11/18