内容説明
これまで薬物依存は,ともすれば司法的問題として捉えられ,治療や援助ではなく,取り締まりの対象とされてきた。しかし,治療なき取り締まりは,わが国における覚せい剤取締法事犯者の高い再犯率以外に,問題を抱える当事者に対して一体何をもたらしてきたであろうか?
意外に知られていない事実がある。近年わが国において急激に乱用が深刻化しつつある薬物とは,覚せい剤でもなければ大麻でもないのである。それは,精神科治療薬という「取り締まれない」薬物である。
いうまでもなく,薬物依存から回復に必要なのは,罰ではなく,治療である。薬物依存は,世界保健機関(World Health Organization; WHO)によって認められた医学的障害であり,わが国の精神保健福祉法においても精神障害の一つとして明記されている,れっきとしたメンタルヘルス問題なのである。そしてメンタルヘルス問題である以上,その治療は,単に「薬物」という「モノ」をやめさせることではなく,その「ヒト」が地域で普通に暮らせるようになることを目標にしなければならない。
本書には,医療機関や保健機関の援助者・治療スタッフのために,現場で役立つ情報や考え方が数多く紹介されている。当事者,家族,すべてのアディクション臨床にかかわる治療スタッフに必携の書といえよう。
目次
第1章 アディクション――精神科医が「否認」する「否認の病」
第2章 依存症とアディクション――何がどう違うのか?
第3章 薬物依存に対する精神療法――患者と家族に対する初回面接の工夫
第4章 薬物依存臨床におけるインテーク――治療戦略に役立つ情報
第5章 薬物依存に対する治療プログラム――Matrix ModelとSMARPP
第6章 薬物依存の回復と寛解
第7章 薬物をやめる薬物は存在するか?――薬物渇望に対する薬物療法
第8章 思春期における薬物乱用――薬物乱用の危険因子と保護的因子
第9章 アディクションに見られる衝動性と攻撃性
第10章 覚せい剤精神病の妄想――妄想に垣間見える生きざま
第11章 精神科治療薬の乱用・依存――医原性の薬物依存
第12章 摂食障害と「やせ薬」乱用
第13章 援助困難な女性物質乱用・依存者の対応のコツ
第14章 医療観察法におけるアルコール・薬物依存症――(1)鑑定編
第15章 医療観察法におけるアルコール・薬物依存症――(2)治療編
第16章 アルコール・薬物依存症と自殺予防
第17章 薬物依存臨床における司法的問題への対応
感想・レビュー
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ひろか
anchic
Yasutaka Nishimoto