内容説明
アメリカで生まれた数多くの「ユートピア」の中でもひときわ異彩を放つのが、J・H・ノイズが創立したオナイダ・コミュニティである。神の代理人を自負する教祖ノイズは、「隣人愛」を徹底させるべく、親子の愛や特定男女間の恋愛を厳しく糾弾。信者たちのセックスをも管理し、やがて“優秀な”男女の子孫のみを増やそうと、優生学的生殖実験を始める。この「理想の共同体」が迎えた結末とは――。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
HANA
52
18世紀のアメリカには理想郷を作るべく珍妙なコミュニティが乱立していたわけだが、本書はその中でもオナイダ・コミュニティに焦点を当ててそれらを解説した一冊。古代のユートピアは現代ではディストピアに変わっているわけであるが、丁度この時期が変わる端境期になっているのかなあ。このコミュニティも完全に管理された性と優生思想に基づいた出産と、古来からのユートピアの例に漏れていないが、逆説的に何故それが崩壊するのかのサンプルとなっているなあ。一つの社会実験の興亡を描くと共に、優れたユートピア論でもある本であった。2017/03/25
小鈴
10
19世紀アメリカでは様々な「ユートピア」コミニュティが生まれたが、教祖ノイズが設立したオナイダは原始共産主義的な共有財産制をしき、夫婦や親子の愛情さえも共有する、言い方を帰ると特定の人間に執着することを否定し、一夫一婦制ではなく複合婚を提唱、性交渉は特定の人とは行わず、子どもの親もバラバラとなる。一時は軌道にのりこの世の天国のようになったオナイダはノイズのカリスマ性の低下で解体し、経済共同体として株式会社化するのであった。キリスト教から派生した団体だけど、なんだかヤマギシと似ていると思った。2015/03/19
maqiso
1
19世紀のアメリカでは、キリスト教や社会主義に基づくユートピアコミュニティが多数建設された。オナイダ・コミュニティは教祖のカリスマ性と経済的な成功によって、独自の性行為と婚姻の習慣を保ったまま何世代か続いた。当時の社会と比較すれば女性や労働者の扱いは良かったが、階級や矛盾は存在しており、教祖の老いとともに崩壊した。コミュニティ初期の貧しい時期は厳しい教義が必要だが、裕福になると規律が軽んじられるというのが面白い。著者の道徳観が古い感じもするが。2021/01/22
芋煮うどん
1
フリーセックスコミュニティーのレポートとしてより、一つの集団の勃興と衰退の道筋を知る上でおもしろかった。カリスマのわがままさ、いい加減さも。2015/09/06
明石屋真奈
0
複合婚は共産主義やスペシャル・ラヴの否定といった「頭」から来た発想だと思っていたのですが、狂信やハートブレイクから来たものだったのですね。そりゃ初潮を迎えたばかりの少女への「初夜権」も自ずと発生するわ。ヤンデル男の人って怖い。 それでも教祖の卓越した政治的センスやカリスマから最大最長級のユートピアとなり、崩壊(株式会社化という軟着陸)の理由もそれらの低下に依るものだから、(前述の犯罪や、成人となっても女性にとって半強制的な性交要求といった問題を除けば)一時のシステムの出来は現代人も唸らせるものがある。2015/06/06