内容説明
ニューヨーク近代美術館のキュレーター、ティム・ブラウンはある日スイスの大邸宅に招かれる。そこで見たのは巨匠ルソーの名作「夢」に酷似した絵。持ち主は正しく真贋判定した者にこの絵を譲ると告げ、手がかりとなる謎の古書を読ませる。リミットは7日間。ライバルは日本人研究者・早川織絵。ルソーとピカソ、二人の天才がカンヴァスに籠めた想いとは――。山本周五郎賞受賞作。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
抹茶モナカ
1332
アンリ・ルソーの晩年の作品『夢』と全く同じ構図の作品が出て来た。それが本物か、贋作かの鑑定を軸に進む美術ミステリー。先が気になって、どんどん読み進めてしまった。気分転換したい時に、がつがつ読むのに最適です。でも、ふわっと文章が頭から逸れちゃうシーンもあったかな。2014/08/09
kk
898
アンリ・ルソーなんて、正直ほとんど名前も知らない画家さんでしたが、俄然興味を唆られててしまいました。ルソーだけでなく、若き日のピカソらのパリでの暮らしや活躍などにも触れながら、時代の変り目の中で人と芸術がどう向き合ってきたかといった辺りにも、無理なく丁寧な視線が注がれます。そんな背景の下、ハードな前衛芸術活動とは一線を画すルソーの純粋な気持ちが優しく光っています。そんな深いストーリーを、日本人女性である主人公の目線で無理なく語るなんて、うーん、マハ先生、ほんとにすごいお方ですね。2019/09/07
ろくせい@やまもとかねよし
876
原田マハさんの代表作に相応しい作品。彼女の経験と知識が大いに生かされている。人が死なない優れた美術ミステリーと絶賛したコメントに偽りはない。ルソーとピカソをめぐる画家たちの生き様をしっかりと描き上げる。自己の中で他者を想いやる人間の魅力を再認識した。驚きは、原田さんの文章は私の胸を勝手に打ち、自然と感涙を引き起こすことである。それも止ませることが困難なまで。理由は分からない。決して状況や心境を綴った文字面ではないことは確かである。原田さんは、人間の潜在的な利他的おもやりを感じされる作文の名手と思う。2016/03/04
さてさて
823
『美術に関する知識やセンス以上に、人海戦術と交渉力、そしてときには色気が必要になってくる』というキュレーターのお仕事、『偶然、慧眼、財力。名作の運命は、この三つの要因で決定される』という絵画の運命、そして『本気であの人の女神になってやれよ。それであんたは、永遠を生きればいい』という画家・パブロの言葉など、絵画の世界の奥深さに素直に感動するこの作品。絵画に繋がれた人と人の間に生まれる互いの存在への尊敬の念とそこから生まれる人としての優しさに魅了されるこの作品。心に強く響いてくる素晴らしい作品だと思いました。2021/11/28
かんた
715
二重の入れ子構造についていけるか不安であったが、そんなことを気にする間もなく、物語に夢中になっていた。アンリ・ルソーの「夢」に酷似した、とある絵画の真贋対決。これに挑むティムと織絵、2人の人間模様にも心を動かされた。どんな結末が待っているのか、読み進めるにつれ期待は膨らむ。忙しく読むのに時間がかかってしまったが、その分長く楽しめた。2021/11/02