内容説明
功利主義者、パノプチコン創案者。近代批判の中で忘却されたベンサム。しかし、この怪物の構想は現代にも生きている。死刑廃止、動物愛護、都市衛生、同性愛擁護、さらにはチューブによる社会通話システム、冷蔵庫……。人間を快感と欲望の中に配置し、自我の解体をも試みた男。19世紀最大の奇人啓蒙思想家の社会設計図を解読し、その背景を解明する。(講談社学術文庫)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
壱萬参仟縁
19
1993年初出。1776年『政府論断片』では、功利の原理は、統治と道徳の根本的基準となっている(20頁)。‘91年はパノプチコンの歴史上記念すべき年(44頁)。パノプチコン・プロジェクトが、アレゴリーと観念を、中年男の妄想としてはあまりにも子供じみた物語のうちで作りあげてしまったのか(52頁)。キューバにパノプチコンがあるとは知らなかった(ピノス島写真111頁)。ベンサムの建築の理想は、崇高さへの欲望で作られた(116頁)。彼にとって自然法はフィクション(217頁)。2015/01/07
misui
14
フーコーの論によって広く認知されたパノプティコン(一望監視装置)の提唱者ジェレミー・ベンサムは、現在でもロンドンでそのミイラ化した姿を見ることができる。一八世紀、「最大多数の最大幸福」を掲げて功利主義者として出発した彼は、政府に近い場所にパトロンを得る。時に恋に破れ、時に弟を助けるためにロシアへ渡り、独特の快楽主義的な論理を振りかざして頭角を現していく。本書ではそんなベンサムとともに同時代の著名人に多くの紙幅が費やされており、一時代の空気が匂い立つ。この時代から現代にまで続く諸々が生まれたのだなと。2013/03/11
またの名
8
20歳近く年下の女性に対する愛の言葉と社会計画パノプティコン構想を入り乱れさせながら手紙を書くとか「パノプティコン原理によるハーレムを建てたい」と口走る、著者によれば粘着質な陰の者の思想家の解説。曖昧な良識に頼るイギリス法を批判しあらゆるルールを細部まで例外なくマニュアル的に規定しようとしたベンサムは、人々の快楽を事細かに計算し最大化するための社会設計を企図して、同性愛も最大多数の最大快楽(幸福)の観点から擁護。革命阻止を理由に、監視対象に気づかれることなく会話を盗聴するネットワーク状のシステムまで考案。2021/09/22
鬼束
8
伝記的な要素が強い。ベンサムが生きた時代、歴史的背景に疎いせいで面白さの半分も味わえてないのかもしれないが…ベンサムが同性愛を功利主義的原理に基づいて、肯定していたという話は面白かった。その時代、表立って同性愛肯定を公言することは、ボコられるからさすがにできなかったみたいですけど。しかもベンサム亡き後ですら、長年に渡って故意に無視され続けられるという。それをして、なるほど彼の先見の明というやつを思い知られされた。2015/11/06
onaka
8
功利主義や最大多数の最大幸福を唱えた18世紀末の思想家ベンサムの思考のクセがどこからやって来たのか。父との関係や同性愛への危険なシンパシー、コモンローへの法曹家としてあり得べき嫌悪などなど、極めて個人的な事情が折り重なり、この怪物が形成された。社会システムは快感と苦痛の数学によって計算されるべきという根本思想と工学的手段への執着が、パノプチコンのような間接立法の具体的な設計を生んだ、なんていう説明の裏に、こんな報われない恋愛経験があったなんて、、著者のベンサムへの愛が感じられる快著!2015/04/06