内容説明
ある晩秋の日曜日、父危篤の報せを受けて、二十二年ぶりに実家に足を踏み入れた元警官の介護士・阿南。父との反目から家族とはほぼ絶縁状態だった彼は、老いて日常生活も覚束なくなった父の姿を見て、強い衝撃を受ける。翌朝父は、すでに死亡した母の名前を呼びながら、突如「わしが、殺した」と阿南に告げて泣き出した。二歳のときに死に別れた母。知ろうとしなかった父の人生。自らの家族にかつて何が起きたのか? ごく普通の人びとが抱える孤独と哀しみから浮かび上がる過去の謎を、鮮やかな筆致で綴って忘れがたい余韻を残す傑作ミステリ。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
森オサム
55
地味な話、しかし私にとっては物凄く面白かった。主人公は47歳の介護士。自分の父親の過去を調べるエピソードと、高校時代の恋人の旦那さんを探すエピソードで物語は進む。ハードボイルドタッチの文章も読み易く好感が持てるが、何より出て来る人物たちが作品の中で皆生きていた。介護の現状のやるせなさと主人公の頑なな性格のせいも有り、全体的に重苦しい雰囲気では有る。そしてまた、ミステリーとしての驚きは主眼では無い。が、人間ドラマとして素晴らしいと感じた。余り苛烈な設定だと引いてしまうんで、この位が良い塩梅です。おススメ。2018/09/04
たち
27
暗くてあまり面白くなさそうな始まり方なのに、いつの間にかグイグイ、物語の中に引き込まれ、ラストには涙まで流してしまいました。良かったです。阿南のシリーズを全部読みたいです!2018/10/03
*mayu*
17
主人公の刑事を辞めた理由が描かれてない…と思いきや、これシリーズものなんですね(汗)元・刑事、元・探偵であり現介護士の阿南が認知症を患う父が発した「俺が殺した」の真相を問う物語。正直、結末は呆気ない。元恋人の旦那の失踪事件も…うーんそりゃバレるわ。ってなりました(^^;;けれど阿南と渉の会話は好き。叔父と甥って感じで。2015/07/06
柊子
16
小池真理子さんと同名のタイトル。だから手に取ってみたのだが、シリーズものだったようだ。介護の話はとても身近で引き込まれた。家族の気持ちに納得したり、反感を持ったり・・・。が、ストーリーは全体的に淡々として、あまり深みがない気もする。1作目から読まないとだめかな。2015/06/14
尾塚
8
著者の作品はいくつか読んでいるんですが、少しテイストの違った感じがしました。元警察官で訪問介護士が主人公。ついに介護士が探偵役をする話かと驚き。22年振りに疎遠の実家に。父親は痴呆症気味で過去に殺人を示唆。久しぶりに再会した女友達はご主人が行方不明に。なんて謎がダブルで。ミステリーとしては大きなトリックもどんでん返しもないけど。父親の介護を兄弟同士で押し付け合うところや、訪問介護の職場での老人の実態はさすがに時代の話題だなぁと痛感。楽しめました。2015/05/14