内容説明
スペインを旅し、住まうこと20数年。人間がこの地にしるした歴史を冷徹に見据え、自らの魂の遍歴を語る連作小説集。幼い子供が歌う赤旗の歌、ムッソリーニの失業対策によりフランコ側で闘った老人の話等、今なお残るスペイン内戦の影を見つめた『バルセローナにて』。アラゴン、カスティーリア両王国の王位継承者、狂女王と呼ばれたフアナの数奇な運命を辿る『グラナダにて』他一編。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
295
堀田善衛氏は都合20年余りをスペインで暮らすのだが、これはそのごく最初の頃。フランコの死後2年といったあたり。アストゥリアス地方の寒村アンドリン村、アンダルシアのグラナダ、そしてカタルニアのバルセロナと、いずれもマドリッドからはマージナルな地だ。そして、この時期にはまだまだスペイン内戦の影が随所に残っていた。アンドリン村には共和国の、グラナダではファシスト軍にいた元兵士、バルセロナでは国際義勇軍のリンカーン大隊の生き残りの人たちが。そして、当時は伝説のラ・パッショナリア、ドロレス・イバルリも健在だった。2017/08/08
A.T
26
「ゴヤ」に次いで2作品目の堀田善衛。またも、突如スペインの片田舎の荒地に一人降りたったような、映画的な空気感漂う世界観にグイグイ惹きこまれた。著作の年代1977年を基軸に、現代、16世紀、スペイン内戦という3時代を短編ながらも濃厚に描く。ムッソリーニの失業対策にフランコ側で戦ったイタリア人との出会いでは、ヨーロッパという人種階層の絡みあう複雑怪奇な混沌の一片を垣間見る。2019/03/09
A.T
25
再読。ロシアによる一方的な殺戮と破壊がウクライナに対され単細胞のわたしの理解を超える事態に、本編は少しの説明になってくれるのかもや… 1936〜1975年まで続いたスペイン内戦とフランコ独裁時代を生きた人へのオマージュを込めた実話モドキの小説短編集。表題作「バルセローナにて」のスペイン フランコ側に参戦したシチリア出身の元イタリア兵キケQueque 誰だ?さんなどとヒトを食った名を名乗る男のように、独裁か共産主義かの戦いに関わった人間の動機の多様性や複雑さを40ページ足らずにまとめ切った。2022/04/10
rinakko
16
再読。『テラ・ノストラ』を読んでいる最中なので、狂女王フアナの生涯について語る「グラナダにて」が印象深かったのを思い出して引っ張り出した。暗黒と沈黙と狂気の女王を生んだ国、その光と影。あと、「バルセローナにて」の中の “スペイン内戦は、ある意味では、十七世紀以来の、あらゆる西欧政治思想の叩き台のようなものであった。” という一文は憶えていた。やはり忘れ難い。2016/07/10
浅香山三郎
12
堀田さんの小説にはなかなか手を付けられてゐないが、随筆は割りとよく読んできた。なかでも、スペインについては長年住んでをり、ゴヤの評伝もあるので、言及も多い。本書はアンドリン村、グラナダ、バルセローナ、のそれぞれの場所で、現代のスペインと欧州各国との関係、イザベル女王、スペイン内戦といふ、この国の中世から現代迄の歴史の蓄積とその重い影響を、著者独特のユーモアを交へて語る。スペインの人々と堀田さんとの日常の会話・交遊から、糸をたぐるやうに歴史が姿を現してをり、この国の歴史の地層のぶ厚さを感じさせる。2023/03/29