内容説明
江戸は芝神明宮にほど近い「風待ち小路」には、小さな店が肩を寄せ合うように集まっている。その中のひとつ、絵草紙屋・粂屋のあるじ笠兵衛は、いまひとつ覇気が見えない跡取り息子の瞬次郎に物足りなさを感じていた。ある日、半襟屋のおちせが店に引札(広告チラシ)を依頼に訪れ、瞬次郎と恋仲になっていくが……。子連れのおちせが抱える意外な秘密とは? 男と女、父と子、母と子──さまざまな人間模様を感情豊かに描く連作短篇集。時代小説の新たな担い手による傑作。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ミカママ
431
何人もの読み友さんたちから、目に見えぬタスキのように回ってきたこの作品。春遠からじの今がまさに旬、と読んでみた。なにしろ上手い。人物描写、拡げられた風呂敷のたたまれ方、江戸市井の人々や町の息づかい。宇江佐さん亡き今の世に彗星のように現れた志村さんを、われわれ時代小説ファンは諸手を上げて歓迎する次第である。2019/01/21
じいじ
115
まずもって「春はそこまで」の表題がいいじゃないですか。見るからに温かさが伝わってきます。舞台は江戸、絵草紙屋、生薬屋、洗濯屋、古着屋…などの立ち並ぶ裏通り「風待ち小路」。何といっても、子供たちからご隠居まで登場人物のキャラがバラエティに富んでいて楽しい。仕事も一所懸命するけど「浮気は男の甲斐性」と女郎屋通いの道楽亭主も、女房の一喝で目が覚めます。どの店も、よくできた女房たちで支えられています。女の底力はいつの時代も偉大です。笑いあり、涙あり、感動もある、とても味わいのある時代小説で、お薦めです。2018/01/22
新地学@児童書病発動中
114
非常に良かった。私の大好きな藤沢周平と宇江佐真理を足して二で割ったような作品。これはお勧め。「風待ち小路」と呼ばれる場所で様々な店を営む人々を描いた連作。前半は宇江佐真理風の市井小説で、後半になると藤沢周平風の武家小説になる。この2つの世界を違和感なく組み合わせたところに、作者独自の個性を感じた。登場人物の描き方も巧みで、特に両親の不仲を子供の視点から書いた「胸を張れ」は泣かせる内容。苦労人のおちせの恋模様は江戸情緒を感じるしっとりした味わいで、私の好みだった。胸が晴れ晴れする結末も素晴らしい。2017/11/22
遥かなる想い
100
関東の芝神神社の門前町で繰り広げられる人間模様を描いた時代小説である。 商店街の人々の連作人情物だが、 昔ながらの心温まる情感がなぜか 懐かしい。最後の二篇の仇討ちが 突然で 全体を落ち着かなくさせている気がするのが、 少し残念だが、安定した筆致が心地良い… 時代小説だった。 2022/03/13
タイ子
60
宇江佐作品のファンなら楽しめるだろうと読友さんの紹介の通り確かに宇江佐さんの声が聞こえるような作品でした。江戸のとある商店街を舞台に、商人たちの商いの方法、継承問題、商店街にライバル登場で客足が途絶え始めた時、何をすべきか知恵を出し合い、常に前向きな姿勢で生きている姿に気持ちよくなります。男女の愛もあったり…と、思っていたら中盤辺りから何やら不穏な空気が漂い始め、一気に流れが変わっていき、単なるほっこり商売物語ではなくなるところが面白い!読友さん、ありがとうございました♪2018/12/15