内容説明
幸せな生活に満足していたメラニー。ある日、骨董屋で買ったヴィクトリア時代の寝椅子でうたた寝し目覚めると、1800年代にタイムスリップし寝椅子の元の持ち主であるミリーという女性になってしまっていた……。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
NAO
51
妊娠中に結核を発病しずっと療養生活を続けている女性が回復の兆しがあるということで主治医から許され、居間にあるヴィクトリア朝の寝椅子に移った。眠りから覚めると、150年以上前の同じ日に死にかけている女性の身体に乗り移っていたのだ。鍵は、寝椅子に移ったメラニーが恍惚に包まれた、ということ。 二人には共通点があったのだが、女性の境遇のなんと違っていることか。2024/09/16
藤月はな(灯れ松明の火)
31
産褥のメラ二ーは気が付けば、ヴィクトリア朝の肺炎で死にかけているミリーの体にいた。媒介したのは夫が手に入れて試しに寝てみたヴィクトリア朝の寝椅子のようだ。ミリーの姉の愚痴によるとミリー自身は一族の顔に泥を塗ることを仕出かし、厭々ながら引き取られたらしい。自分に関係のないヴィクトリア朝の「死者」の世界ではなく、元の時代に戻ろうとするが・・・。次第に分かってくる人々から軽蔑されるミリーの罪とミリーの体にいることによって思考が同調していくメラニーの様子からラストまでの畳み掛けは慄然の一言しかでません。2013/05/11
天の川
27
不思議な感覚に陥る。結核に冒されつつも子どもを産み、前途洋々の夫を持つ、ある意味幸せなメラニーが手に入れたヴィクトリア朝の寝椅子。目覚めるとヴィクトリア期。メラニーの意識は結核で死にゆくミリーの身体に。元の世界に戻ろうと努力しつつ、やがてわかってくるミリーの背徳。寝椅子に潜むミリーの恍惚の記憶がメラニーの意識と混然一体となって…メラニーの意識はミリーの身体のままで生を閉じたのだろうか。暗い閉じられた空間の物語は、結末が明確でないだけに怖かった。2015/08/23
秋良
17
【G1000】骨董品の寝椅子で寝たらタイムスリップし、19世紀のミリーの身体に精神が宿ってしまった20世紀のメラニー。産後ハイのような多幸感の漂う20世紀パートからの、陰鬱で身に覚えのない罪により蔑まれる19世紀パートへの劇的な落下。徐々にメラニーとミリーの意識が混じり合う違和感のなさ。寝椅子から一歩も動かない状況をぐいぐい読ませるリーダビリティの高さ。なんか凄い。SFよりも閉鎖空間でのパニックムービーに近い。結末も果たしてメラニーはどうなったか分からず。死んじゃった気がするけど。2020/12/11
きゅー
16
タイムトラベルの物語はいくつもあれど、自分が他人として目覚めるというこの物語の新奇さは特徴的だ。自分と他人の記憶と意識が混濁する恐怖の描写は、一種のホラー小説とも読める。ところで本書では「恍惚」についても焦点を当てている。それは一瞬が永遠となり、自身の全存在が一点に込められるような時間をもたらす。二人の人間は恍惚という糸によって時間を越えて相まみえる。そしてその力ゆえに滅び、救われる。20世紀イギリス小説個性派セレクションの名に恥じない陰影に富んだ一冊だった。2014/06/10