内容説明
一筆ずつ塗り重ねられる精緻な絵画のように、あるいは一針ずつ施される絢爛たる詩集のように――一語一語選び抜かれた言葉は、思わぬつながりを持つ次の言葉を連れてきて、夢中でそれらを追ううちに思いもよらない地平に連れ去られていく。時空間も記憶も等質な粒子となって混じり合い、拡散し、迷宮のような読書体験をもたらす、著者初の自選短篇集。
目次
日記
曖昧な出発
フィクション
声
境界線
花嫁たち
もう一つの薔薇
調理場芝居
春の声
沈む街
ゆるやかな午後
1+1
グレート・ヤーマスへ
砂の粒
孤独な場所で
柔らかい土をふんで、
著者から読者へ
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
踊る猫
29
金井美恵子と言えばとかく映画なのだけれど、もちろんキネティックな体験をさせてくれる作品であることは間違いない。ただ、本書を読んでいて感じたのはヴィジョン/ショットの美しさだけではない。そこから漂う匂いやざわめきの生々しさをも同時に感じ取ったのだった。都市が持つ独自の硫黄にも似た匂いと雑踏のざわざわした音……ストーリーを覚えようとして読むのは野暮というものだろう。ショットの美しさを、まだ生硬さが残る文体で必死に表現しようと試みているその手つきに惹かれること。それこそがこの作品集を読む読者に委ねられている……2018/04/05
かわうそ
27
生々しい感覚と印象的な色彩を積み重ねた緻密な描写の繰り返しでまさに紡ぐという表現がふさわしいと感じる作品群。迷宮のように入り組んだ長い長い文章を読み解くのが段々快感になってきます。2014/12/31
まさむ♪ね
26
夢を見ていた。作家金井美恵子の精神世界を旅するような。わたしという存在がゆっくり溶けてあいまいになってゆく。わたしはどこに?そこは無意識的な何か、極めて孤独で無意識的な何かが感じられる場所。それをとらえることはとても難しい。わたしの存在は置き去りにされ、ただひとり彷徨うほかない。強風にまき上げられる砂粒のように、なすすべもなく。2015/11/28
ちぇけら
21
言葉と言葉が幾重にも重なって(おそらくは淫靡な香り。あるいは腐敗した甘い甘い糖蜜のバームクーヘンのように)、わたしは湿った玄関にいつからか、いつまでも、放置された暗緑色の合皮靴をほのかに照らす、夕暮れの太陽をベッド越しにみた。わたしの眼窩にたまった、ちいさな汗の粒に吸いつく舌は、柔らかくて、目をつむる。官能のためいきが漏れて、どこまでも濡れてすべり落ちていく、わたしはぜんぶ桃色の肌。<わたしはいつか、かつて、たしか、薄羽だった、>突然の予感に揺すられて、流れつづける、2019/04/12
若布酒まちゃひこ/びんた
21
金井美恵子をひさびさに読んだ。ずっとむかし、「やわらかい土を踏んで、」などを読んだときはとてもむずかしいという印象を持ったけれども、このひとの小説は読むことの難解さではなくて、書くことがほんとうは「簡単」なことなんだってこと、無意識的な行為であることで満ちている気がした。たぶん、自明であることをあらためて理解することがほんとうは難しいのだとおもう。ひとまず、いまは。2015/06/03
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