内容説明
日々の暮らしに欠かせない天気予報。明治期に、この予測をより正確なものにするべく命を懸けた夫妻がいた。野中到(いたる)・千代子夫妻――到は私財を投じて富士山頂に気象観測所をたて、前人未到の冬期観測を実施。「一人であれば、夫は必ず死ぬであろう」と考えた千代子は、夫を支えるため後を追って山頂に登るが……。世界遺産に登録された霊峰・富士山を舞台に、日本の未来のために初めて富士登山に挑んだ、実在の夫婦の感動物語! 2014年7月26日からNHK総合で連続ドラマ化(全6回)。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
よむよし
114
富士山頂で高度気象観測に成功した野中氏の千代子夫人を描く。女の美徳は耐えること夫に従うことと信じる明治、大正の典型的な女性でした。しかし彼女の胸には夫婦とは、女性の真の生き方はという問いが常に去来していてときには耐え難い悲しみでさえあった。気象観測に情熱をかける夫の前に彼女の心は子育てや家庭を守るだけでは癒やされなかった。彼女は長女を祖母に預け極寒の富士登頂を決行するに至る。長期滞在中二人は重症の高山病にかかり救出されるが待っていたのは長女の死でした…彼女は賭けるものを発見しそれに徹した人生でした。2024/03/08
ふじさん
102
この本を読むまで、野中千代子の存在は知らなかった。明治28年の富士山山頂の観測の主役はまさに、彼女だ。封建社会の殻を破り、日本女性此処の在りとその存在を世界に示した最初の女性と言っていい。困難な状況と知りつつ、夫の後を追って富士山頂に登り、夫を支え観測を行う、これほどの情熱と気概と勇気と忍耐を持った女性が明治の時代にいたことに驚く。新田次郎のあとがきの文章に、彼女の偉大さが読み取れる。 2022/03/05
じいじ
84
新田次郎の4作目、既読の『八甲田山 死の彷徨』と甲乙つけがたい感動作に熱く燃えた。富士山頂に気象観測所を建てたい! この法外な計画実現に、明治時代の中ごろに立ち向かった夫婦の実話である。野望ともいえる計画実現に向けて、夫の一助になりたいと立ち上がった妻のこの仕事への意気ごみは、夫の期待を超える凄まじいものだった。夫は準備の裾野での手助けを…。妻は頂上でも夫と観測の仕事を共にしたい…。厳しい寒さ、予期せぬ病魔と闘いながら、完成した気象観測所。現在に生きる我々は、その意義をもっと理解しなければいけないだろう。2023/08/02
大阪魂
76
この本も感動やった!最初に富士山で冬季観測やらはった野中到・千代子夫妻の物語。日清戦争直後、世界に肩並べよおもたら高峰・富士山で通年観測が必要!ってことで自費で山頂に観測小屋建てはった到。一人で半年籠るつもりやったんやけど、千代子さんがすごくて、男尊女卑の家族や社会の声なんかガン無視、娘も実家に預けて到のために無理矢理富士山登ってきて合流!新田さんが千代子さん主役の物語書きたいってこの本できたそうやけど、そのぐらいすごい人やったね!この快挙あったから短編であった佐藤さんの観測所設置が実現!明治の人すごい!2021/08/30
タツ フカガワ
72
富士山頂に気象観測所が建てられたのは昭和7年。それに先立つ27年前の明治28年に私費で観測所を建て越冬観測に挑んだ野中到・千代子夫婦の物語で、“芙蓉の人”千代子の献身的かつ進歩的な人物像が胸を打つ。また二人を襲う山頂での自然の苛烈さも圧巻! ページを捲る手も凍えるようでした。ちなみに野中夫婦を描いたカバーイラストで左の到氏、直木賞作家の今村翔吾さんかと……。2022/02/09