内容説明
「おい鈴木、米原正和を捜しに行くぞ」とその米原正和が言った──。失踪した米原正和の行方を、当の米原とともに追う鈴木。会社を休んで、米原の自宅、立ち寄り先を米原をともに捜す。果たして、米原は見つかるのか?
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
徒花
204
おもろかった。相変わらずの不条理ナンセンス文学。3篇収録。「IT業界心の闇」はまあまあ。急転直下でいきなり終わりを告げるオチは嫌いじゃない。「Tシャツ」はいまいち。ところどころおもしろいんだけど、全体的にダラダラと続いて楽しめなかった。表題作はよかった。こちらも基本的にダラダラと話が続くんだけど、サラリーマンの不可思議な珍道中が個人的なツボに入ってしまった。思ったよりもボリュームが少なく、アッサリ読めた。2018/10/25
あも
90
品の良い文体で語られるこの上なく下品で意味不明な物語、ってか物語?とは?何ぞや?目的地の定かならぬミステリーツアーはワクワクするものだけど、辿り着いたそこが目的地なのか否かすら分からないとイライラするし、電車降りたらどこやねんって不安になってソワソワもする。つまり一体またしても何を読まされたんです?時江に犯された脳は、まち子ラッシュで千々に乱され、そして米原が米原を探し始める。そういやハワードどこ行った?なんて脈絡を求めることすら無粋で、ただ舞い散る桜を眺めていたら、なぜだかジェロームが恋しい春の夜の嵐。2019/04/12
ずっきん
85
やばいやばいやばい。『絶滅のアンソロジー』を読んで追おうと決めたわたしは間違ってなかった。ドンピシャ。端正な文体で語る、壮大なくだらなさ!紙面びっしりの文字列は、中途半端に引かれたようで、その実、ひだも風による揺れも計算しつくしたカーテンの上を流れるように滑っていく。下品が崇高に仕上がっていく。ドライブ感バシバシの緻密な描写が、予想と期待を逸らすどころか粉砕し、読み手をカタストロフィへと導いていく。うわあ、むちゃくちゃ好き。こういうのもポスト・モダンっていうのかな? ずきんは新たな嗜好を発見する「まあ!」2021/09/23
aquamarine
81
著者の作品は三冊目。慣れたつもりでいたが、そうではなかった。最初の「IT業界、心の闇」では、普通(あくまでも古栗作品として)に読み続けた後、突如現れるラストに、伏線!ちゃんと伏線があった!と驚愕。Tシャツは物語としてより、鮮烈なセンテンスを楽しんだ。私は物語にはそれほど乗れなかったけど好きな人はたまらないんだろう。表題作の最初からわけのわからない米原が米原を探す怒涛の奔流が、なぜか一番好み。彼らを追いかけ、待って待ってとそっと手を伸ばす。その伸ばした自分の手が、思いがけずに私自身の背中をドンっと押した。2019/04/12
Willie the Wildcat
71
何だろうこの不思議な読後感。テーマを深く掘り下げ問題提起をする訳でもなければ、揶揄する訳でもない。こんな考え方や言動もありなのかな、という世界を描写。表題も否定できない主人公の心情。就業時間に対して異なる意味を創造し、仲間も巻き込んで一騒ぎ。植木等氏の”サラリーマン”シリーズを彷彿。『Tシャツ』も読み始めに予想した結末とはもちろん異なり、ここでも”無責任”シリーズを彷彿。(笑)もしかすると、この「考えすぎる日常」からの離脱が、狙いだったのかもしれないと考えてみる。だとすると、マンマとやられたなぁという感。2018/01/14