内容説明
口承によってうたい継がれてきた中央アジア・キルギスの英雄マナスは、永遠に年をとらない、とても元気な男の子。その「夢の歌」を聞きたいと旅をする「あなた」。氷河によって削られたジャイロの美しい牧地に心奪われ、その地を駆けめぐった多くの騎馬、狩猟民族の興亡に思いを馳せる。(講談社文庫)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
翔亀
43
遺作から遡って読み続けてきた津島さん。数えてみたら11冊目。津島さんにしか書けない最も津島さんらしい作品かもしれない。一見すると最初から最後までキルギスと内蒙古自治区(中国)の旅行記なのだ。ツアーではないが一般旅行者としてガイドを雇う旅。日本では知られてない土地なので物珍しく、その少し冒険的な旅にわくわくしながら読者もヴァーチャルな旅を楽しむ。自分もこういう旅をしてみたいな、と。しかし中央アジアをめぐるソ連と中国の現代史が語られ始め、ガイドはいつの間にやらキルギス人或いは中国人としての自分史を語り出す。↓2016/12/15
yumiha
27
キルギスという国は名前を知っていただけだった。本書によって、なんと様々な宗教や文化が混ざり合った国なんだろうと思う。それだけ歴史に翻弄され続けた国だからだろう。そこに伝わるマナスの長い長い英雄叙事詩に惹かれて津島佑子は訪れる。私は英雄には魅力をあまり感じないので、なんでやろ?と思う。私の偏見だと思うが、記憶にない父や幼くして亡くなった息子を、英雄の夢の歌に重ねて見つけ出そうとした試みかもしれない。『ジャッカ・ドフニ』のように「あなた」として語られる私。それは、過去の自分を客観視して書くためだったろう。 2017/01/21
みねたか@
24
「マナスの歌」。馬の走りのような4拍子のリズムの「夢の歌」。歌に誘われた「あなた」がキルギスの地を巡る旅行記(小説)。はるかな時間を超え,ユーラシアを縦横に駆け抜け,時に消え地にもぐり変容してきた遊牧騎馬民族の歌。そのリズムを山の冷たい風の中に感じ続ける「あなた」。今の私にはそのリズムや息吹は届かない。ただ,なめらかなエメラルド・グリーンに包まれた、広大な夢の世界。放牧されたウマたちがいて、ボズウィが点々と見える美しい世界に思いをはせる。そしてぜひ「マナスの歌」を読みたいと思う。2019/04/16
あ げ こ
9
その夢はいつも、重く、息苦しいものであった。どれだけ目を背けようとも、逃れる事の出来ぬ現実の閉塞感を象るかのように。『黄金の夢の歌』は、それ故に喜ばしい。その夢が、その現実より生まれた夢の歌が、どこまでも広く、開かれたものであるが故に。死より免れぬ生の、救いとなり得るものであるが故に。2016年、「あなた」もまた夢の時間へと旅立ってしまった。「あなた」の懐かしく、大切な男の子がいる夢の時間へ。沢山の夢の歌を残して。狭く、騒がしく、忙しない生の内に在るもの達の、救いとなり拠り所となる、沢山の夢の歌を残して。2016/03/14
あ げ こ
5
多くの津島佑子作品において、夢は、胸中の苦悩、様々な葛藤を生む欲望、今の自分を作り上げた過去など、主人公の現実を象徴するものであり、閉塞感をまとう、現実に縛られたものばかりであったように思う。しかし今作で歌われる夢は、現実から生まれたものでありながら、現実に縛られず、時間の流れからさえも自由であることによって、死を免れぬ人間の生の、拠り所となるべきもの。広大な旅路のすべてが「あなた」の夢の時間、そこに馳せる思いから生まれた夢の歌は、その結末まで晴れやかなものであった。清々しい開放感が胸いっぱいに広がる。2014/01/04




