内容説明
御城明け渡し後も、徳川の世が安泰であるかのように、謎の旗本は勤仕をまっとうした、しかも出世までして。やがて明暗と噪寂の中、まさかの天下禅譲の儀が……なしくずしの御一新でも、人としての義は変わらない。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
koba
141
★★★★☆2014/04/14
あすなろ
98
黙する六兵衛。この上下巻で発した言葉は、二言⁈更に正体も掴めず。こんな小説、成立してしまうのが浅田氏なのだろう。正直、辛い箇所もあったが。これは、新聞連載で読むのは辛かろう。黙し鎮座召される六兵衛は、どんどん存在感増す。鰻作戦にも振り向かず、慶喜公かとも言われ。訓えたもの多く、人生の路傍に花を咲かせ、という最後の浅田節は何か読者も妙に感動。ひょっとしたら権現様の遣わしたものかというくだりにも妙に納得。ねじ伏せの浅田節、設定と共に面白かった。2014/11/17
文庫フリーク@灯れ松明の火
96
「物言えばきりがない。しからば、体に物を言わせるのみ」期待したカタルシスは得られなかったが、丸に矢筈の家紋。この後ろ姿は当分忘れられそうにない。同僚の津田・高利貸し、淀屋辰平・伝馬町の牢屋敷に捕われた福地・的矢家ご隠居夫妻の一人語りで明らかになってくる、六兵衛と入れ替わった男の人柄・旗本株購入の経緯。されど、入れ代わりまでの素性はおろか、本名すら判らぬ六兵衛の名を継いだ男。時に公家の回し者と思われ、時に英国のスパイと思われる六兵衛。極め付けは前将軍・徳川喜慶と勘違いする隼人。確かに六兵衛の正体が喜慶公→2013/11/27
chimako
89
六兵衛様、あなた様は一体何処の何方であったのでしょう。十ヶ月もの永きを居ずまい正し身動ぎもせず、白米と香物のみで過ごされたそのお心はどのようにして育まれたものなのか。四千両もの大枚をはたいて旗本になったその途端世の中は急変。皆様が我身の心配であたふたとなさっているその時、六兵衛様はお城に上がられ 身も心も江戸城西の丸御殿と一体となられた。入れ代わった的矢六兵衛こそが真の六兵衛だと仰るお父上とお母上のお話は胸に沁みましてございます。共にお城にあった加倉井隼人様とは佳き輩となられますことお祈りいたします。2016/11/22
財布にジャック
84
読み終わってみれば、まことに浅田さんらしい小説でした。上巻の段階でギャグだのホラーだのと疑っていた自分が恥ずかしいです。文字を使って語る小説の中の主人公がここまで語らないのは心外だと憤りさえ感じていたのにも係わらず、最後は六兵衛さんが大好きになっていました。勝さんも西郷さんも桂さんも大村さんも、六兵衛の引き立て役に見えてしまったのは、まさに浅田マジックでした。2013/12/12