内容説明
「悼む」という行為は人間だけが持っている。人間は必ず死ぬ。人間は死に向かって生きているのであり、人間にとって死ほど重大なテーマはない。歳を重ねるほどに悼む機会が増えてきた著者がたどり着いた哲学は、「死んだ人は、だれかがその人を思い出している限り生きている」ということであった。親しかった人の死に遭遇しても、いつまでもその人を思い出すことで、その人は生きていたときと同じようにイメージできる。多くの文学は死んだ後もその人を生きていることにできる唯一の方法なのだ。「いつのまにかずいぶん長生きをしてしまった。八十歳も近い」とつぶやく作家が、ここ十年にわたって執筆した追悼文を一章に、二章「よく生きて、よく死ぬ」では「悼む心」が自身の文学に影響している心情をまとめ、三章「読書が培う悼む力」では日本語と悼むつながりを考えたエッセイをまとめ、悼むことの重要性を再認識する一冊。
目次
1章 悼む心を明日の糧に(優しく愉快な井上ワールド いつか読む井伏鱒二 色川武大さんの勝負哲学 ほか)<br/>2章 よく生きて、よく死ぬ(マイナスからの出発 病人と病気の性格について 命を扱う仕事 ほか)<br/>3章 読書が培う悼む力(読書は一生の楽しみ 言葉にまつわる“個人的な体験” おもしろい本が一番 ほか)