内容説明
戦時下にタイムスリップしてしまった家族。
東京近郊に住む平凡な家族は、ある朝、戦時中(昭和19年)の日本にタイムスリップしていた――信じられないようなSF的設定で始まる問題作。家族が投げ込まれた世界は、戦時下の「食糧不足」「言論統制」「強制疎開」「大空襲」の時代だった。憎むべき〈戦争〉の時代に、〈飽食した〉現代人はどう立ち向かうのか。太平洋戦争末期、敗戦へと向かう日本を鮮烈に描きながら、驚くべき結末が待ちうける戦慄の寓話。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
がらくたどん
61
終戦の日に「この前の戦争」が更新されませんようにと祈りつつ①再読。昭和56年から昭和19年にタイムスリップした2家族が体験する戦争終焉の日本を描く山田太一風「体験手記」。昭和56年というのがミソ。戦中に成人していた層は口を噤み、戦中生まれと戦後生まれが混在した働き盛り層が高度経済成長の予感に未来だけを見ていた時代。戦中の街で曖昧な戦争体験や知識を動員して戦争末期の狂騒に抗おうとする親世代と「何も知らない」からこそ明確な敵がいる分かりやすさの結束感・共通目標に惹かれていく子世代の軋轢を描く寓話的ホームドラマ2024/08/15
樋口佳之
50
小学校の五年生の夏に、私は敗戦を迎えました。(あとがき)/とにもかくにも、それは幸運な事ですが、80年直接の戦争状態に陥らずに過ごしてきたこの国では、実体験(著者の場合10歳位でしょうか)と重ねて戦争を描ける方は全くおられなくなる時期に来ているのですから、読まれるべきお話なのではと思います。アンリミテッドさまさまでした。2025/08/14
おさむ
38
珍しい山田さんの戦争もの。現代の家族が戦時中にタイムスリップというSFチックな展開に思わず引き込まれて一気読み。終わりはハッピーエンドではなく、山田さんらしい「暗さ」でした。同じく脚本家の倉本聰の戦争ものもたしかタイムスリップものでした。現代人に分かりやすく戦争を実感してもらうにはこうした仕掛けしかないのかなあ……。2015/11/19
馨
36
ラストはちょっとしたどんでん返しで驚きでした。それまでは昭和19~20年の戦時下の国内の状況や国民性をよく描いていたと思います。ただ主人公にあまり共感出来なかった。むしろラストにかけての子供たちのほうに共感してしまった。2013/08/31
のぶのぶ
34
ドラマを見てあるので、流れは同じであるが、今の方が現実味が高まっている。戦争体験はしていないが、過去のことを学んでいる。学んでいても、止められない。先日、ニュースでウクライナの子どもがドローンを作って、少しでも国に貢献し戦争を早く終わらせたい気持ちで作っている映像を見た。でも、そのドローンは、実際に人を殺すことになるだろう。早く戦争を終わらせたい気持ちが強いが、結局は、戦地に赴く兵士や国に協力して働く人たちと同じであるし、戦時下に置かれたら、自分も同様な気持ちをもってしまうだろう。明日は我が身かも2024/10/10