内容説明
北九州の小さな町に赴任してきた教師・舞子。最初の登校日の朝、暗い目をした少年に出会う。教室では明るく優等生として振舞う彼をどうしても目で追ってしまう舞子。二人がそれぞれに抱えた闇が、夏祭りの夜、花火のように暴発する。映画『ふがいない僕は空を見た』の監督が放つ次なる代表作、緊迫サスペンス長編小説。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ちょろこ
151
忘れられない作品の一冊。少年犯罪、加害者被害者家族、このテーマの作品は数あれどこれは間違いなく忘れられない作品の一つに君臨した。なぜなら被害者家族の抱える苦しみの毛色がダントツに違うから。双子の兄弟"裕也"を少年法に守られた少年によって殺められた"晃希"の心情が苦し過ぎる。たった五才から十年間も抱えていた苦しみ、飲み込み続けた秘密、つねることが唯一の贖罪のようで何度も涙は止まることを知らなかった。誰もの心情描写がラストまで心を痛いほど揺さぶり続ける。いつだって行き場のない心ほどつらく苦しいものはない。2021/07/20
pino
147
戸畑っ子のタナダさんが描く戸畑はどんなだろう。殺人事件に巻き込まれた家族の苦悩がテーマなので、埃っぽい街の空気が垂れこめているように重い。舞子と晃希の視線が合うたびに走る緊迫感は中学校の教師と生徒の、それではなく、別々の殺人事件の加害者家族と被害者家族としてのものだ。後ろめたさや猜疑心からくる憎しみや苛立ちが互いを突き刺す。二人が事件をじっくりと語り合う場面はないが、こうした些細な描写にリアリティを感じる。様々な問題が浮き彫りにされあまりに辛い。戸畑祇園も街も丁寧に描かれストリートビューを見てるようです。2014/10/10
紫綺
116
罪を犯すということは、とても大変な事なんだな。被害者はもちろん、加害者も、その家族・・・引いては周りの人々まで夢にも思わない風評に悩まされる。薬丸さんの「友罪」を読んだ時も思った事だが、いつまでも終わらない地獄の無限ループのようだ。いずれにしても犯罪に縁のない人生を送りたいものだ。2014/06/11
モルク
106
双子の兄弟裕也と晃希。裕也は五才で中学生によって殺される。少年法によって守られる加害者と、世間に晒される被害者家族。一方、中学教師の舞子は、中学生の時大学生だった兄が殺人を犯し人生が狂う。被害者家族だけでなく世間にも謝り続け、引越し…どこへ行っても加害者家族という汚名から逃れることはできない。そして東京から離れた地の中学に移りそこで生徒の[晃希]に出会う。靴を交換したばかりに晃希として生きる選択をした彼は辛い。舞子は兄に[晃希]は犯人に死んでほしいと願うが、それで解決するわけではない。心理描写が見事である2021/12/04
風眠
83
ヒメジョオンとハルジオン、どちらも見分けがつかないくらい、よく似た花。けれどふたつの花は違う。10年前のお祭りの日、そっくり過ぎて見分けがつかない双子の片割れが惨殺された。当時まだ5歳だった。それから時が過ぎ去り、事件のあった町に一人の教師が赴任してくる。その教師の兄は別事件の殺人犯だった。被害者家族と加害者家族、どちらも否応なく人生に苦悩を強いられてしまった人。殺害現場にヒメジョオンをたむけ続けるもう一方の双子、その花に込められた想いと真実。ヒメジョオンとハルジオン、違うということを自分が知っている。2014/01/26