内容説明
グループホームで働く千鶴は結納前日も夜勤が入り、入居者たちはそれぞれの方法で千鶴を祝い……(「Aデール」)。40年以上前に失踪した初恋の女性・葉子に会うため、窪木は孫娘の園を連れて、葉子の入院する病室を訪ねる(「布袋葵」)。四雁川の流域に暮らす者たちを通し、生死や悲喜に臨む姿を静かに描く7篇は、僧侶にして芥川賞作家がおくる、鮮烈な「一期一会」の作品集。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
新地学@児童書病発動中
103
川が背景にある物語が好きだ。川の流れと人生を重ね合せて、物語を読むことができる。川の流れが尽きことがないように、人の人生も喜びや悲しみを湛えながら、死ぬ時まで続いていく。この物語では四雁川という詩的な架空の川が出てくる。そのほとりで登場人物たちは、私と同じようにさまざま思いを抱えて生きている。喜びよりも苦しみや悲しみが多い。それでも作者は登場人物一人一人に寄り添いながら、苦しい人生の中にある救いを見出そうとする。冒頭の「Aデール」は、介護施設で働く女性の話だ。彼女の結納の前日に、認知症のお年寄りたちが→2018/02/03
アッキー
3
架空の場所だが、なぜか、親しみやすいを、感じた。2015/12/27
すいそ・はいどろ
3
生老病死。人は生まれながら苦しみを抱えている。苦しみの底に汚穢があることに気づくことが、さらに苦しみを重ねる。だから汚穢の存在を知っていることを忘れようと努力する。そしてその努力ゆえに汚穢は忘れられず、苦しみは消えない。多くの荷物をそれぞれの人が背負い、背負いすぎた故にその重みさえも忘れる瞬間が訪れることもある。変わらないのは川の流れだけ。しかし流れている水は一瞬も同じものはなく常に変転している。だから次の川ために、一歩ずつ。さらに一歩ずつ。歩みは続く。極楽をめざして 。あるいは地獄に向かって。2013/04/02
coldsurgeon
2
四雁川という架空の川をはぐくむ町を舞台にした七つの物語。それぞれに関連する人物はないのだけれども、重なる地名に、ふと、物語を重ねて見たりする。いい作品だった。2013/04/20
Aki
2
老人ホームに勤める若い女の子の結納前夜を書いた「Aデール」。 死んだ父親の残した義足にまつわる話「残り足」。 何十年も前に想いを寄せた女性の入院先に、孫と訪れる「布袋葵」。 不慮の交通事故で娘を亡くした夫婦の悲しみを書いた「地蔵小路」。 行方不明になった友だちの足取りを追って、同じ年頃の息子を亡くした老婆と出会う「塔」。 巫女の女性に淡い恋心を抱きながら、思春期を迎える少年の話「スクナヒコナ」。 など、とても玄侑宗久さんらしい死生観で描かれた短編が入ってます。 どの短編にも素朴な生と死、人間2013/04/09