内容説明
「恐ろしい伝染病」という誤ったイメージとともに、療養所に隔離されることを余儀なくされたハンセン病者。彼らは戦後社会のなかでどのようにして実存を模索し、療養所の内外の他者との関係性を編み上げてきたのか。多磨全生園の入所者の声を丹念に聞き取り、さまざまな日常の営みからそのリアリティーに迫る。
目次
序 章 ハンセン病療養所で生きるという経験をめぐって
1 全生園というフィールド――ハンセン病療養所の過去と現在
2 ハンセン病問題とは何か――既存研究のアプローチから
3 隔離を生きる経験への社会学的接近――日常的実践と共同性
4 調査の概要と本書の構成
第1章 隔離を構成する機制と実践――戦前期の全生園の日常から
1 「全生村」という呼称の奥行きをめぐって
2 病者を取り巻く近代の機制
3 構造的制約を異化する実践
第2章 〈社会復帰〉という実践――ハンセン病療養所退所者の経験から
1 ハンセン病療養所における「戦後の変化」とは何か?
2 〈社会復帰〉という実践をめぐって
3 希望と困難
4 〈社会復帰〉経験の深層へ――ある退所経験者の軌跡から
5 複数の関係性と自己を生きる
第3章 自己の確認をめぐる攻防――ハンセン病療養所にとどまった人々の「戦後」経験
1 もう一つの「戦後」
2 「転換期」を生きる――ある「職工」の生活史にみる生業と自己
3 さまざまな葛藤のなかで
4 実存の模索――ある「職工」の生業に対する語りから
5 人生を物語ることの意味
第4章 療養所の内外へと広がる社会的世界――「ふるさとの森」作りの取り組みから
1 迫り来る死を前にして
2 戦後日本の社会変動と全生園入所者のリアリティー
3 解体する療養所の在り方――全生園での「作業」「自治」の崩壊
4 「ふるさとの森」作りの取り組み――緑化活動とその意味
5 「ふるさとの森」の現在が提示するもの
第5章 「終わり」と向き合う――全生園入所者による歴史記述の諸実践から
1 全生園入所者による歴史記述をめぐって
2 「終わり」と向き合う――ハンセン病療養所入所者の一九七〇年代
3 過去の想起と共同性
終 章 〈想い〉の地形学――ハンセン病問題の過去・現在・未来
1 全生園北部の一角から現前する共同性
2 〈共生〉への試論
あとがき