内容説明
競輪場を舞台に綴る切ない6つの人間ドラマ
「ねえ聞いてるの? 自分のことを僕って呼ぶ人間がギャンブラーになんかなれるわけないって、あたしは言ったのよ」とマリは婚約者の青年をたしなめる。JRの勤勉な駅員として働く彼の、唯一の趣味は競輪。そんな彼が、死期の近づく父の残した当たり車券を元手に大口勝負を挑もうとする表題作。
信用組合に勤める女が、車券の一点勝負にギャンブルの真髄を見い出したきっかけを語る「遠くへ」。
十三年間定職に就かず、競輪場で儲けた金だけで生活している独りぼっちの男が、中学時代の同級生と再会したときの顛末を告白する「この退屈な人生」。
ある夜明けのくしゃみと三万円分のはずれ車券のせいで、夫婦のあいだに波風が立ちはじめた鮨職人の「女房はくれてやる」。
賭けに負けたことがない女子高生が、姉の婚約者の応援に駆り出されたのを機にこっそり通い出した競輪場で淡い恋心を抱く「うんと言ってくれ」。
同棲相手の会社の金を持ち出したという兄を追って、八年前のある出来事から車券を買わなくなった競輪ファンの弟が佐世保競輪場へ向かう「人間の屑」。
全六篇収録。
競輪場を舞台に繰り広げられる切ない人生が放つ一瞬の輝きを、透明感あふれる文章で綴った珠玉の作品集。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
masa
82
ごく稀に、自分のために存在してるとしか思えない小説に巡り逢えることがある。今風に言えば俺得。その瞬間の快楽こそが、僕が小説を読み続ける理由の一つでもある。論理的思考なしに心に食い込む言葉。心象風景のデジャヴ。まるでアハ体験。殆どの場合、それは有名な人気作ではなかったりする。そして、僕にとってこの作品がそれだ。これほどまでに賭博者を描き切った物語は他にない。著者の尋常でない賭博心理への造詣に脱帽。『競輪』を『競馬』に置き換えても、そのまま読める。鉄火場での博才は人間として屑で、真人間ほど鉄火場では屑なのだ!2018/07/22
さっとる◎
48
人は2つに分けることができる。ギャンブルをする人間としない人間と。それからギャンブルをする人間も2つに分けられる。本物と偽物と。聞いてもいないのに武勇伝を語りたがるのはだいたい偽物だから気をつけたほうがいい。本物は更に2つに分けられる。才能ある本物と才能のない本物と。才能のない本物は屑と呼ばれるかもしれない。そして屑はまた2つに分けられる。矜持ある屑と軽蔑すべき屑と。矜持ある屑になりたい。お薦めされたとかみんな買ってるとかどうでもいいんだよ。私は買った。それだけが本当。さあ、責任をたった独りで背負い込め!2019/12/01
ちゅんさん
47
競輪場を舞台にした短編集。ギャンブルに溺れる人たちばかりなのに不思議と読後感は悪くない。会話のユーモアなども心地よくどうしようもない人たちばかりだが人間味があっていい。“ギャンブルの手を借りなくても人生なんてもともと狂ってる”という台詞が印象的。まったくその通りだ。“競輪”が題材なので敬遠する人もいるかと思うがご心配なく、最後に著者のサービス精神たっぷり用語解説付録もあるしなによりすごく面白いですから。2019/08/23
ソラ
41
競輪に興味が無いし、そもそもギャンブルの類が嫌いなので最初は取っ付きにくくて仕方が無かったけれど、最後になると理解はできないけれどなんとなく悲哀的な何かを感じた気がした。2014/10/31
a子
21
何コレ!サイコー!!あぁ!愛すべきダメ人間!ビバ!ギャンブラー!!競輪にまつわる6つの短編、これがどれも面白い。競輪なんて興味を持ったことはなかったけど、怒号と歓声が轟き ハズレ車券の吹雪が舞う(想像)…みたいな実際の競輪場に身を置いてみたくてウズウズする。ああ、コレよ、こうでなくちゃ、やっぱり人間って面白い。正論はつまらない。タイトルから巻末の飄々とした競輪用語集までまるっとお気に入りです。2019/11/20




