内容説明
最初の記憶は五歳のとき。公営住宅の庭を眺めていたあたしにママが言った。「逃げるわよ」。母の名前はマコ、娘の名前はコマコ。老人ばかりが暮らす城塞都市や奇妙な風習の残る温泉街。逃亡生活の中でコマコは言葉を覚え、物語を知った。そして二人はいつまでも一緒だと信じていた。母娘の逃避行、その結末は。(講談社文庫)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
りょうこ
46
桜庭さんの世界観にぐいぐい引き込まれた。第1部のジェットコースター並のスピード感!第2部の深夜特急が夜を走る様な混沌とした感じ...結構な厚みのある本でしたが、飽きずに読み終わりました!2011/11/22
きっしぃ
45
ひさびさに700頁越えの大ボリューム!マコとコマコの逃避行の一部と、その後のコマコが描かれる二部構成。一部はあっという間に読めたのに、二部に入ってちょっと退屈してしまった。5歳からの10年の経験が呪縛のようになり、上手く生きられないコマコが歯痒い。映画になったら面白そうかも?とめったに映画とか見ないのに言ってみます(笑)2016/11/28
山吹夏芽
38
一度勢いよく読み始めてこれは!と思い、今度はもったいぶるように何日か置いてから、読み終えました。逃避行にグルグル酔い、高校生活に深く頷き、本来の家族との再会に苦虫を噛み潰し。そして語るべきは文壇生活のリアリティ。まさにここからが本番で物語の核といえるでしょう。作者が読者へ、そして未来の物書きへ向けた熱いメッセージ。それはフィクションとあいまってうまく混ざり溶け合っている。虚構と現実とがうまく調和して成り立っている“面白い”作品。2012/07/26
yumiha
36
「コマコ、逃げるわよ」というオープニングから惹きつけられる。そして母と子の逃避行が続く。駒子にとっての母は絶対主ですべて従う。読みながら、私と母との関係を何度も思い出す。これほど極端ではないけれど、そんな面は確かにあった。駒子は母を崇拝していたけれど、私は内心反発していた。あり得ないほど悲惨な育ち方をした駒子は、母と離れた第二部で「表現」という分野に深く入り込む。フィクションを通してこそ語られる真実の痛み、という桜庭一樹の通奏低音が、駒子と出会った人々を通して語られて行く。「狂気が追い表現が走る」。2021/05/03
pulpo8
31
止まらない!ページをめくる意識がなくなるほどに物語に没頭できたのは久しぶりだ。703ページという厚さで飽きさせず読む喜びを感じさせてくれたのだから、傑作といって差し支えないだろう。これほどまでに人間を暴き出す手腕があったなんて、と驚愕の思いだ。文章も相当磨かれて洗練されている。上手い比喩も多く感嘆した。性もこのように俯瞰して書くと壮絶というか不快感もなく引き込まれる。性犯罪を面白半分に扱う作家は見習って欲しいとさえ思う。ただ終わり方はやや凡庸か。物語と育ったマコが服部まゆみ「この闇と光」のレイアに重なる。2016/06/02