内容説明
『瞼の母』『一本刀土俵入』『日本捕虜志』などで知られる明治生まれの大衆作家・長谷川伸。終生、アウトローや敗者の視線を持ち続け、日本人のこころの奥底に横たわる倫理観、道徳感覚に光を当てた。その作品を読み直し、現代の日本人に忘れ去られた「弱者へのヒューマニズム」「含羞を帯びた反権力」の生き様を考察。
目次
『夜もすがら検校』と『沓掛時次郎』
『瞼の母』
『一本刀土俵入』
武士道、町人道、任侠道
仇討
ごろつき
神ではなく人間を信じた
『日本捕虜志』
「たたかい」とは何か
義理と人情
埋もれた人々を掘り出したい
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
おさむ
35
「瞼の母」で知られる長谷川伸の創り出した世界観を山折哲雄が「日本人のこころ」として紹介する本著。長谷川は「日本人は神を信じなかったかわりに人間を信じてきた」。それは義理人情の世界だが、いつなんどき無情の風で吹き飛ばされるかもしれない頼りにならない世界。読んでいるうちにふと映画「男はつらいよ」シリーズを思い出しました。寅さんは社会から疎外された人だが、飄々と生きる自由人。まさに長谷川作品の主人公たちと同じです。近く50作目が復活するあの映画シリーズが広く日本社会に受け入れられた理由の一端が見えた気がします。2019/12/15
kayak-gohan
27
少年時代は歴史小説が大好きで司馬遼太郎や吉川英治などを読んでいたが、大人になって世の中に出てからは大河小説的なものから関心が離れた。この頃からは市井の人々の生き様を描いた作品を読むようになった。例えば山本周五郎の作品群や捕物帳など。壮年に至った今ではそれらも興味が持てなくなった。なぜか?これまで読んできたものは、読み物としての面白さや人間を明るくとらえようとするヒューマニズムは豊かに感じ取ることができたが、日本人の心性の根幹をなしているものへアプローチしきれていないものを感じたからである。2019/02/26
壱萬参仟縁
12
書名を英語で説明するのは、ワビとサビ同様、難しい。思いやりの背後に、相手に対する負い目の情が欠けてはいないか、との指摘(32頁)。3.11で生還者には死者に対する負い目が過剰にある。また、著者は長谷川伸の木曾義仲の話と、折口信夫の北条早雲の話をダブらせている(110頁)。憶えておきたい。義理とは植山源一郎氏によると、social obligationで、人情は生まれつきもっているともいう(通称300選122‐3頁)。義理は後天的で、人情は先天的とも換言されよう。いずれにしても、義理と人情を生涯かけて学ぶ。2013/05/27
金目
6
股旅ものというジャンルを作った作家長谷川伸に関する評論。弱者に対する負い目を持ち続ける任侠の道、仇討ちと上位討ち、捕虜、世間に対する義理と時にそれを超えてしまう人情、追われるものの運命に寄せる同情の気持ち、武士の心。長谷川伸が描こうとしたものは何で、現代人は何を忘れてしまったのか、瞼の母、一本刀土俵入り、荒木又右衛門などの名作の解説と合わせて学ぶことができた2021/05/09
Nobfunky
3
何とも重い読後感。捕虜、敵討、ゴロツキ、たたかい、親無し子、日本人は人間を信じて生きている、未だ整理できず。2015/01/03