内容説明
初めて訪れた香港で知る、私の出生の秘密。
学校に行っていないことが母親に発覚し、厳しく詰問されていた女子高生の彩。その母親との諍いの最中に、うっかり口にした、「どうせ父親も知らないから」という言葉がきっかけで、母親は突然、半ば強引に彩を香港へと連れ出す。どうやら彩の父親はいま香港にいるらしい。生まれてからこのかた彩には父親という存在の影すらなかった。自分がうまくいかないことの全ては、そのせいではないかと思っていた。頭が悪いのも、溌剌としていないのも、夢がないのも、希望がないのも、全部。とはいえ父親に会いたいとは一度も思ったことがなかった。そんな彩の気持ちも知らない母親が、彩に唐突に訊く。「懐かしい感じ、する?」「するわけないじゃん、香港になんか来たことないのに」。すると母親は「遺伝子には町の記憶は入ってないのね」と思いもかけないことを口にした。もしかして、私の父親は日本人ではないのだろうか、香港の人? そう疑問に感じ動揺する彩だったが、熱気と活気に溢れる香港の街、そして力強い響きを持つ広東語に惹かれるうちに、少しずつ気持ちがほどけていく。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
ぶんこ
64
マイナス思考で、周りの人のせいにして逃げてばかりいる17歳の彩美。これでは疲れるだろうな。それが突然香港に連れ出され、ザワザワとして喧嘩のような会話をする人々に囲まれているうちに、人の目、思惑を気にしなくなり開放されている自分に気付く。香港でのひと夏のホームステイが依怙地だった彩美を救ってくれたのでしょうか。読み始めは苦しかったのが嘘のように、読後は爽やかです。おばあちゃんとマリイがよかったです。2016/11/01
ここまま
37
学校もさぼりがち、人づきあいも苦手で日常に閉塞感を抱いていた彩美。それは父親を知らないせいだと彼女は感じていた。17歳の夏休み突然香港に連れて行かれる。この地に父親がいるという。日本人とは少し違う香港の人たちのさっくりした関わりかたが彼女には心地よく、次第に心はほどけていく。人が集まるとそこにはいつも料理があって気兼ねないおしゃべりがある。そんな香港の賑やかな街の雰囲気が感じられて楽しい物語だった。2014/10/10
kaoriction
31
かわいい子には旅をさせよ。つまりは、それだな。かなり ざっくり、簡単に物事は進む。「細かいことはどうでもいいから」「ざっくり会ってしまえ」。彩美の気持ちそのままに。でも、内容は意外にも濃い。不思議だ。香港という街がそうさせるのか。彩美や母・麻也子の心情はどこか鬱屈としていて、根も深い。が、変に無駄な説明や描写がないからこそ、本作品は心地よいのかもしれない。「エンジョイ出来たのね、生きることを」。マリイの言葉が温かくも辛辣で、忘れていた何かが見えた気がした。サクサクっと読めて、元気になれる不思議な一冊。2015/11/14
とりあえず…
26
高校二年の夏、何事にもやる気の出ない彩美は、ふと、それは父を知らないからだと母にもらす。そして母に連れられ香港へ。 香港の人口密度の高すぎる喧騒や充満する美味しそうな匂い、早口でまくし立てる(ように聞こえる)広東語。そういう熱い香港だけど、人々はダイレクトでせっかちで親切。ん?それだけ聞くと大阪に似てない? ま、それはさておき。 そんな香港で自分を取り戻し、大切なことを見つけていく。ただの一夏の成長物語だが、爽やかな筆致で実に心地よい読書時間でした。2015/08/25
takayo
22
ほうほう!突然物語が始まり、17歳の主人公と一緒に香港に上陸していた。主人公の謎解きも気になるのでページをめくる手が止まらない。香港は行ったことがないけど、香港に行った気になるような描写が続く。ファッション、食べ物、言葉、居住空間、路地、屋台、夜景。中でも「町中が誰かのキッチン」「キッチンが家の中ではなく家の外にある」という表現は素晴らしい言語化だ!それと、最後の方の母親の人生観に胸を打たれた。2022/10/13




