内容説明
あの栞というのは、下の方に髪の毛の赤い子供が蹲ってなにかしている絵のついた栞のことだが(いまになってみると、それがにんじんのスケッチだということがわかる)、その栞が忘れられないのは、余白のところに、ペンでこんな文句が書いてあったからである。家庭は愛し愛される者だけで作れぬものであらうか。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
きゅー
7
未完の小説、随筆などが収められている。通風は痛いよねそれよく分かる、井伏鱒二って多くの作家から敬愛されてるよな、といった浅薄な感想で申し訳ない。それにしても少年時代に、彼の兄二人が失踪、姉二人は自殺というのは辛い日々だったろう。2023/06/08
桜もち 太郎
5
痛風になった時の事、教師時代の事、作家を目指すきっかけになったこと、姉の形見のルナールの本の事。「にんじん」のこと、そして師事した井伏鱒二への思い。飾り気がない読みやすさは三浦作品を読んでいつも感じるところだ。味わい深かった。2014/07/05
星野
5
タイトルと装丁に惹かれて図書館にて。著者は初めてですが、久しぶりに私小説なるものを読みました。こういう、生活そのものの息遣い(身体の部分部分の痛みや形、呼吸するように交わされる会話)が物体そのものの体形や熱をもって感じられるものを読むと、やっぱり先人というか、近代と現代の小説の差を感じます。色々勉強になる。2011/10/09
樹燐
2
三浦哲郎さんの文章は、脳に染み入る美しさ。滅びの血に惹かれてしまうのは、しょうがないことなのだろうか。2013/08/15
mick
1
未完の小説、随筆などがまとめられている。「肉体について」は今まで読んでいた三浦作品とは違うった。軽やかで未完なのが残念だ。三浦作品は学生の頃大好きでよく読んでいた。文章が端正で、暗い底がほのかに見えるようで、だが暗いわけでもない。その頃様々なことを考えるきっかけになった。井伏鱒二とのやりとりも興味深く読めた。2018/11/22