内容説明
明治元年。江戸城は明け渡され、官軍が続々と江戸に入り出す。田舎侍に対して反発が高まるなか、官軍の隊長クラスが続けざまに殺される事件が起こった。薩摩軍先鋒中村半次郎は旗本十人を捕え、犯人が名乗り出るまで一日に一人ずつ斬首してゆくという復讐を始めるのだが……。理不尽な運命の餌食となった侍たちを描く。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
kokada_jnet
78
官軍が支配した明治元年の江戸で、復讐の人数あわせのため官軍に機械的に確保された旗本十名。かれらの清濁まざりの極端な人生の描きぶりが、実に見事で、ドストエフスキーやバルザックを連想してしまう。未読の山風作品に、まだ、こんな傑作があったとは。作者自身が作中で、官軍が占領した江戸を、1945年の日本にたとえているが。私にはイスラエルが占拠したガザに思えてしまう。2025/03/14
Sam
60
明治元年、江戸入城の混乱に紛れて官軍の兵が次々と暗殺されたことに激怒した中村半次郎は手当たり次第に旗本10人を捕え、暗殺犯が自首せねばこの10人を1日に1人ずつ殺していくという報復に出る。ここまでがプロローグ。その後この10人それぞれが捕らえられるに至る顛末が描かれ、最後は二転三転の鮮やかなエピローグで締め括る。「人間は、その値打ちとは全然無関係な死に方をするもの」という不条理を見事に描いているかと思えば一方で生の尊さにも光を当てる作者の視線や、巧みな構成が素晴らしい。この傑作が絶版とは理解しがたいな。2023/10/02
キムチ
56
文庫僅か340頁の中身の凄さにお腹一杯。折からのキエフ襲撃の画像が被さった。山風先生の独特な死生観は知りつつも、この作品のヒントがWWⅡの欧州にあるのも納得。理不尽な死にあらがう事もなく消えていった命・・抵抗するすべもなく。35年余前の作と有り不適当表現テンコ盛り・・でもそこから湧き上がる情感の深さにも仰天。当時の日本語作品ってこんなに漢字と熟語ぎっしりとは。「死」という項目を自在に駆使して語る山風のアフォリズムの頂点かと嘆息。魔界転生・柳生シリーズは無論人間臨終4冊読んだ上でそう感じる。着地どう行くのか2022/03/02
タツ フカガワ
47
錦旗とともに江戸に入ってきた官軍の乱暴狼藉な行いに薩摩藩幹部が次々と襲われ、ついには官軍屯所前に、鼻を削いだ首三つが置かれるに及んで、薩摩藩中村半次郎は、犯人が名乗り出てくるまで毎日一人ずつ旗本を処刑するといって無差別に十人の旗本・御家人を捕らえる。で、この十人それぞれが捕まるまでの物語が連作風に描かれるが、これがとんでもなく面白い。さらに彼らが斬首される最後2つの章で提示される死生観が深い余韻となりました。まだこんな傑作があったのかと、ため息とともに読了。この本を教えてくれたSamさんに感謝です。2023/10/14
星落秋風五丈原
34
悪い事をしたわけでもないのに、たまたま旗本だからという理由で次々と捕まってゆく十人の男達。あまりに理不尽で実際にあるとは思えないが、解説にある通り、山風はドイツでヒトラーが行った命令にインスパイアされたらしい。だから実際に、人間はこんな命令が下せてしまうし、またその命令を実行できるのだ。で犯人は冒頭で明かされている。まだまだ諦めていない海軍副総裁榎本武揚に従って、函館に向かおうとする戸祭隼人だ。悪い事はしていないと確信していた隼人だが、いざ無関係の十人の処刑を見る度に決意が揺らいでいく。2022/04/03