内容説明
最初は心の小さな狂いでも、それをきっかけに、普通の人間が精神全体を蝕まれてしまうことがあり、ときには取り返しのつかない行動をとることがある。しかし、正常な精神と狂気の境目はごく淡く、我々の社会はアルコール依存、統合失調症、人格障害、うつ病など様々な精神疾患とともにある。人は、いつ、いかにして心を病むのか。現役の臨床医師が、虚説を排して実態を報告する。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
GAKU
37
現役精神科医が、アルコール依存、統合失調症、摂食障害などのメジャーなものから、パラノイア、強迫観念など計九つの精神病症例を患者の実態から、治療の過程までリアルに書いたもの。いずれの病気も、患者との会話例や実際の事件を通して、「心が異常をきたすとはどういうことか」を分かり易く表現してくれている。また、そういった患者のケースを通して、逆に「正常」であるとはどういうことなのかを考えるきっかけも与えてくれる。精神疾患は特別な人ではなく、誰にでも患う可能性がある。正常と異常は紙一重かと思うと怖くなる。2016/01/18
ユズル
25
精神病と言っても色々な種類があるのだな。淡々と書かれる症例を読み、普通の日常を暮らす人が突然発症する不思議さを感じました。ここに記載される方々が異常ではなく、誰しもがきっと持ち合わせているんだろうな。神経症に関しては、一時期私も家のドアとか、電機ストーブとか、やたらと気にしてた時があった。あの時は携帯で写真撮って難を逃れた💧 いつから平気になったのか分からない。ほんと、考えさせられた。2019/04/05
gtn
24
死刑囚秋好英明が内妻に惹かれた理由は「作るメシがよかった」からだという。そんなシンプルな執着が、最終的に殺人の従犯にまで行き着く。しかも、主犯の内妻に罪を全て押し付けられて。死刑の決め手になったのが、秋好の単独犯行との予断に満ちた精神鑑定書。著者は本例を引きながら「日本の精神鑑定の質は必ずしも高いとは言えない」と断言する。精神科医がそう言うのだから、余程のことだろう。2020/05/15
4fdo4
14
著者は精神科医。いくつもの症例が書かれているが、驚いたのは摂食障害。なんとなくの症状は知っていたが、海外の研究では患者の45%以上に窃盗の既往があるというのは知らなかった。窃盗と摂食障害がどのように関連しているかは明確な仮説が出ていないそうだが、これだけ高い数値では関係が全くないとは言い切れない。そこには何があるのだろうか。2021/06/26
マサキ@灯れ松明の火
12
精神科医・岩波明氏による症例報告。現代の心の闇に迫る一冊です。健常者と罹患者との境は…決して明確ではない。誰しもが踏み越えてしまう可能性が在るほどに…不明瞭である。それゆえに起こる事件…被害者も救われない…加害者も救われない…何者も救われない世の中である。2013/10/14