内容説明
空知集治監に滞在する四郎助は、看守長・高野襄と共に監獄を騒がす怪事に遭遇してゆく。ある日、監獄教誨師・原胤昭が命を狙われていることを知り…。薩長閥政府の功罪と北海道開拓史の一幕を描く圧巻の明治小説。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
Sam
50
いつまでも読んでいたい気持ちにさせられる山田風太郎明治ものだが、本作も御多分に洩れず。舞台が監獄、悪業を重ねた囚人たちが次々登場することもあって明治ものにしてはエログロの要素が強いのが目立つがそれは別にどうでもよろしかろう。後年「愛の典獄」と呼ばれた主人公有馬四郎助はもちろん、教誨師の原篤胤、医師の独休庵に加えて五寸釘の寅吉やら牢屋小僧やら異様にキャラの立っている囚人たちが交錯するストーリーはどれも無類に面白く、(毎回同じこと書いてるが)史実と空想が絡み合って全く飽きさせることがない。文句なしの傑作。2023/02/01
千本通り
16
巻末の解説で「西郷を撃った男」をこんなに巧みな話の作り方、見たことがない、風太郎は本当に天才的なストーリー・テラーだとつくづく感嘆させられると激賞している。実在の人物の登場のさせ方、絡ませ方も絶妙で、著者の明治ものをまた読む気にさせる。2025/02/20
キムチ
12
いやいや、面白いのなんのって。 犬ぞりで氷原を走るなんぞ、日本版ワイルドスペクタクル。 「愛の典獄」こと、有馬四朗助の青年期からの成長期だが、出会う人々が濃い!これでは人間から脱皮して神の領域に入っていくのもむべなるかな。 私でも名を知っている伝記中の偉人の祖先がごろごろ出てくるのが嬉しい。やはり、事を成し遂げるのも「かくの如き血が結集して」溢れ出るのかな・・ しかし、男を超えて、オス!性欲一つにしても、動物の世界。 良くも悪くも100年前の世界は同じ日本人とは思えない人が多いような・・2013/05/01
ぐうぐう
10
山田風太郎の小説のおもしろさは、実在した人物を歴史というシナリオの上に配置させながらも、決して史実に縛られることなく、歴史を軋ませるほどに躍動させているところだ。驚くべきことに、『地の果ての獄』に登場する人物の、そのほとんどが実在するという事実に打ちのめされる。風太郎にとって歴史は、決してひとつではないのだ。2012/08/07
hutaro
9
囚人それぞれのドラマ、四郎助の人間的な成長、原胤昭の存在感(あまり出番ないのに)。どれを取っても面白い。欲を言えば、後書きに書かれていた四郎助のその後について短い話でもいいから、書き足して欲しかった。四郎助は囚人を一人の人間として扱い、「愛の典獄」と呼ばれたというエピソードを。彼が影響を受けた原胤昭は、囚人と同じ気持ちを味わうため自ら囚人と寝食を共にした。当時の囚人の扱いがいかに悲惨なものだったかを考えると、かなり原はぶっ飛んでいたと思う。風太郎先生の本にしては、爽やかな読後感で意外。2019/07/25